今冬発売 新型プリウスPHVは買いか



新しモノ好きもいいけど肝心のコストメリットは?

差額70万円分のモトを取り戻せない



新型「プリウスプラグイン」(日本では「プリウスPHV」)は、
JC08モード走行時のEV走行距離が60km以上。


高効率エアコンやヒートポンプ式暖房を装備するなど、カタログ値と
実走行値の差が大きくなるというEVの欠点克服に相当の努力を

払っており、オンロードでもEV航続距離40km以上は余裕だろう。


ノーマルのプリウスのハイブリッドシステムに一工夫加え、
EV走行時は出力53kW(72ps)の主モーターと出力23kW(31ps)の
発電機の両方のパワーを利用できるようになった。


バッテリーの充電方法も一般的な家庭用の100V、単相200V、

EV用の急速充電器である3相200VのChaDeMo(チャデモ)の

3モードに対応。


どんな電力インフラでも充電できるようにするために

そうしたのだという。


■第1世代のプラグインで唯一の成功
EV走行距離で売れたアウトランダー


 第1世代プラグインハイブリッドカー3モデルのなかで唯一、
成功を収められたのは、意外なことに燃費性能で最も劣る
アウトランダーPHEVだった。


トヨタ関係者は当初、「プリウスPHVを月3000台は売りたい」
と息巻いていたが、販売実績はそれに遠く及ばず低迷。


ホンダは限定400台というささやかな台数を

売り切ることができなかった。


 アウトランダーPHEVだけが売れた理由はいくつかあるが、
最大のファクターはEV走行の航続距離にある。


SUVの大きな車体を生かしてバッテリーを大量に積み、
JC08モードにおけるEV走行距離は60kmに達していた。


おまけに急速充電器にも対応。


ライバル2車がEVとしても使えるハイブリッドであったのに対し、
アウトランダーPHEVはハイブリッドとしても使えるEVという性格だった。


 トヨタ、ホンダ両社のエンジニアから「アウトランダーPHEVなんて
エンジンの効率も良くないし、単に大容量バッテリー搭載という力技で
EVっぽくしただけじゃないか。効率はウチのほうがずっといい」と
嫉妬まじりのセリフを聞かされた。


 しかし、それはサッカーの上手い高校生がモテモテになっている

のを見てクラスメイトのガリ勉くんが「数学は俺のほうができるのに」と
叫ぶのと同じくらい意味がない。


プラグインハイブリッドカーに飛びつく顧客はハイブリッドではなく、
本当はEVが欲しいという層だったのだ。


 トヨタが新型プリウスPHVに、従来に比べて大幅に

EV寄りの性格を与えたのは、この苦い敗北から得られた

知見を生かしてのことである。


EVも最近になってようやく航続距離300kmの声が聞こえはじめてきたが、
これとて現行 燃料タンクの小さな軽自動車にも負けるレンジである。


 今日、日本でまともに売れているEVは日産「リーフ」だけ。
だが、これはEVの実力だけで売れているわけではない。


日産は先行投資として多くの日産ディーラーに急速充電器を設置し、
その投資額を考えるときわめて安価な定額料金で
それらを使い放題とするという大胆な策を打った。


日産は「リーフ」発売に伴い、先行投資として多くの

日産ディーラーに急速充電器を設置した。


 「航続距離が短い」というEVの最大の弱点を弱点でなくして
しまおうという強引なワザだったが、果たしてEVユーザーからは
大いにポジティブに受け止められた。


リーフはすでにモデルライフ後半に差しかかっているが、
2015年も国内販売台数は9000台を何とかクリアした。


 手厚いサポートで何とか台数を増やしてきたEVだが、
実はすでにプラグインハイブリッドに押され気味

という様相を呈していた。


2015年、アウトランダーPHEVは約1万1000台が売れ、
初めてリーフが逆転された。


 今年はリーフの性能アップと三菱自の燃費不正による

イメージダウンの相乗効果でふたたび首位の座を走っているが、

アウトランダーPHEVが落ちたと思いきや、今度はEV性能強化版の

プリウスPHVが難敵として立ちはだかることになった。


 プリウスPHVのほうはSUVのアウトランダーPHEVと違って
クルマそのものの個性は希薄だが、ブランドの信頼感は抜群。


そのうえで2時間程度はEVとして使え、その後はハイブリッドカーとして
運用可能という商品力を備えてきた以上、相当の影響を

受けることが予想される。


 もちろんEV陣営もプラグインハイブリッドカーの攻勢を
黙って見ているわけではあるまい。


日産はリーフの次期モデルについて、現状では

公称値280kmという航続距離をさらに延ばすことを宣言している。


だが、それだけでプラグインハイブリッドカーに対して
明確なアドバンテージを持てるわけではない。


■電力各社の深夜料金引き上げで
EVのコストメリットは縮小傾向


 肝心のコストメリットは以前に比べると縮小している。


EVの圧倒的メリットは運用コストの安さと言われているが、
電力各社が深夜電力料金を引き上げる動きも

出てきているからだ。


 仮にプリウスPHVと100km走行あたりのコストを比較した場合、
プリウスPHVがハイブリッド走行のみだったとして
レギュラーガソリン4.5リットル、500円。


対するリーフはバッテリーに送り込むのに消費する投入電力を
15kWhとすると340円。


一応7割程度ではあるが、厳寒期や夏季などエアコン等で
より電力を消費する時期にはアドバンテージは

ほとんど吹き飛ぶことになるだろう。


 現状で100kmあたり1000円くらいかかる燃料電池式EVよりは

マシだが、決して楽な戦いではない。


EVは今後、プラグインハイブリッドカーにはないような
EVならではの素晴らしさを積極的に表現できる何かを

掴む必要があろう。


 一方、プラグインハイブリッドカー陣営も安閑とはしていられない。


プリウスPHVの価格は補助金を計算に入れない場合、
ノーマルハイブリッドに対して約70万円高くなるという。


それでEVライフを過ごせるというのは結構なことに思えるが、
実は罠も潜んでいる。


 先に述べた深夜電力料金引き上げの影響は、

EVと同様にモロに受ける。


現行プリウスが相当に優秀な燃費性能を持っていることもあって、
ガソリン価格が今日の水準で推移する限り、
70万円分のモトを取り戻すのはほぼ不可能に近い。


 短時間テストドライブしてみた印象としては、次期プリウスPHVは
とても良くできたエコカーではあるが、とてつもなく速いといった
決定的な付加価値を持っているわけではなく、ごく普通のクルマ。


 コストメリットが薄いとなると、今度は普通のハイブリッドカーが
立ちはだかってくる。


いちどEVに乗ってみたいという顧客は吸引できても、

そこから先は苦戦する可能性も結構高い。


果たして日本や世界の顧客が

どういう選択をするのであろうか


アウトランダーPHEVの成功例を見ても分かるように

顧客へのプレゼンテーションも非常に

重要な要素になってくるだろう