CO2フリー可能な「水素社会」



電気を電池ではなく「水素」で貯めるハイグリッド


余った電力を使い、水を電気分解して水素を作り、
その水素を液化してタンクに貯める。


「電力を水素にして貯めればコストは劇的に安くなる。
NAS電池と比べて10分の1で済む


風力発電所に水素タンクを併設すれば、水素ステーションに早変わり。
しかも、タンクに貯めた水素はローリーで運ぶことも容易。



水素社会の到来が指摘されて久しい


日本はこれから2040年頃にかけて、車だけでなく家庭用の暖房や公共交通など
様々な場面に水素エネルギーをいきわたらせる計画。


水素先進国ドイツでは自動車だけでなく家庭用ガスなど、身近な場面で活用が進んでいる。
天然ガス車は10万台を占め、今、その燃料に水素が活用されはじめている。


 燃焼しても二酸化炭素(CO2)を排出しない水素をエネルギー源として大規模に活用する、
「水素社会」の実現を目指すプロジェクトが世界各地でスタートしている。


水素インフラ関連の市場規模は、2050年には年間160兆円に上ると見られる。


そうした水素社会を実現するために不可欠な取り組みとして注目されているのが、
CO2の排出を伴わない(CO2フリー)水素製造プロジェクトである。


背景には、先進国が「2050年までに先進国全体のCO2排出量を80%削減する」という、
2009年のG8ラクイアサミットにおける合意がある。


ドイツにおける風力発電の電力から
電気分解で水素を製造するプロジェクトである。


ドイツは脱原発に踏み切っていることから、再生可能エネルギーの中でも
風力発電の導入を活発化させており、その多くが北ドイツに集中している。


 北ドイツには大きな電力需要がないために、工業地帯である南ドイツへ
送電する必要があるが、高圧送電線の敷設が遅れている。


そこで、北ドイツの風力発電で余った電力から水素を製造して
活用するプロジェクトが増えているのである。


 例えば、ドイツの首都ベルリンから北に120km離れたブランデンブルク州プレンツラウで

進められている「プレンツラウ風力水素プロジェクト」では、
合計6MWの風力発電で発電した電力を通常は系統網に送っている。


しかし、夜など電力需要が小さく、電力が余剰になる場合には、
水を電気分解して水素を製造してタンクに貯めておく。


 貯蔵した水素は、必要に応じてバイオマスから製造したメタンなどの
可燃性ガス(バイオガス)と混ぜて、コージェネレーション(熱電併給)システムに供給する。


コージェネ設備では電気は電力系統網に流し、排熱は地域熱供給に販売する。


水素の一部は、ベルリン市内などにある燃料電池車(FCV)と水素自動車向けの
水素ステーションにも供給する、といった取り組みをスタートさせている。


 水素を都市ガスのメタンに混合して燃料として使うハイタン(Hythane:水素混合都市ガス)の
プロジェクトでも、風力発電からの水素を活用するプロジェクトが増えている。


代表例は、ドイツの「パワー・ツー・ガス」である。E.ONやGreenpeace Energyと
いったエネルギー会社が風力発電の余剰電力を使って水を電気分解で水素に転換して、
既存のガス配管網に供給している。


 こうして余剰電力を有効活用すると共に、クリーンな水素を添加することでSOX(硫黄酸化物)や
NOX(窒素酸化物)などの有害物質の排出を削減できる。


既存の都市ガスインフラを活用できることから、
水素社会へ移行するきっかけになるとみられる。



太陽光発電の電力を使って水素を製造する試みも次第に増えてきている。
有名なものとしては、フランス・コルシカ島の「MYRETプラットフォームプロジェクト」がある。


太陽光発電システムの余剰電力で水を電気分解して水素を製造し、
電力需要のピーク時や太陽光発電電力の平準化のために燃料電池で発電し、
コルシカ島の系統網に送電する実験を進めている。


 太陽光の場合には、ビルや住宅といった需要家の施設にも導入されていることから、
施設内で太陽光の電力を水素に変えて活用するプロジェクトもスタートした。


例えば、オーストラリアのグリフィス大学では、ビルの屋根に太陽光パネルを設置して、
日中、太陽光が照っている時間にはその電力を施設内で直接使い、
余剰電力は蓄電池に貯めると共に、電気分解による水素製造に利用する。


生成された水素は、水素吸蔵合金に貯める。


 蓄電池に貯めた電力は主に夜間にエアコン駆動などに使い、
水素は曇天や雨天時に燃料電池を介して電力を供給するといった運用をしている。


水素だけで同施設の1日分の電力を賄えるとしている。



「液化水素」


川崎重工は豪州で産出する低品位石炭「褐炭」から液化水素を作り、
タンカーで日本へ運ぶプロジェクトを進めている。


 豪州には膨大な量の褐炭が存在する。
水分の含有量が多く、掘り出して積み上げておくと自然発火してしまうため、輸出には向かない。


日本が石炭火力発電所や製鉄所で使用しているのは、
「瀝青炭」と呼ぶ高品位な石炭だ。


 豪州にはラトロフバレーという褐炭の産地がある。


褐炭の産地としては世界最大規模で、ここに眠る石炭のエネルギー量は
日本の一次エネルギーの40年分に相当するという膨大さだ。


現在は、採掘地に隣接する石炭火力発電所で燃料として使っている。
発火を防ぐために、採掘してから18時間以内にコンベヤーで発電所に運び込んで燃やしている。


 褐炭を発電に使うと、水分を多く含んだ石炭を燃やすために、
発電効率がすこぶる悪くなるのが問題だ。


ラトロフバレーの場合、約28%にとどまる。


日本の石炭火力発電所の平均が40%を超えていることを勘案すれば、

その低さがわかるだろう。


もちろん、CO2(二酸化炭素)排出量も非常に多い。


 豪州は1人当たりのCO2排出量が世界最大の国だ。
豪州政府には、CO2排出量を減らしたいという思いがある。


そこで、液化水素を志向する川崎重工と思惑が一致。
褐炭から液化水素を生成し、日本へ運ぶプロジェクトが動き出した。


 同社はラトロフバレーで褐炭をガス化する。
その行程で発生する水素とCO2のうち、CO2は「CCS(CO2の回収・貯留)」で海底の空洞へ押し込む。


この空洞は、かつて天然ガスを採掘し枯渇した跡地だ。
既に豪州政府は2012年2月に約80億円を投じて、CCSの検証も開始している。


世界各国で検討が進むCCSだが、ラトロフバレー近海は数ある候補地の中でも
最も実用化しやすい適地といわれている。


 一方の水素は、超低温に冷やして液化し、タンカーで日本へ運ぶ。
扱い方はLNGとほぼ同じ。


天然ガスをセ氏-162℃で冷やして液化するのに対して、

水素はさらに低い-253℃で液化する。


いったん液化してしまえば、1日にタンクから漏れて減る量はわずか0.09%。

タンクに入れて長期保管することも、タンカーで輸送することも難しくない。


 川崎重工業は、2013年中に技術開発にめどを付けて、パイロット事業に着手する計画。
まずは2017年までに少量の褐炭から液化水素を作り、日本へ運ぶ。


そして2025年に、より大型化した実証プラントでの検証を始め、
2030年の商用化を目指すという。


 日本へ運んできた液化水素は、当面は火力発電所の燃料として使う考えだ。
水素を直接、燃料として利用する発電機の開発も同時並行で進めている。


将来は、水素を使う燃料電池車(FCV)や家庭用燃料電池「エネファーム」などへの
供給を視野に入れる。


同社は、ロケット燃料に使う液化水素用のタンクやローリーなどを20年来、
手がけてきた実績もあり、水素インフラへは全方位で取り組む構えだ。


 原発停止後の日本の天然ガス調達量は膨大だ。
圧倒的な売り手市場であるがゆえに、価格も高止まりしている。


新型天然ガス「シェールガス」を日本へ持ってくるといった調達先の多様化は
もちろん必要だが、燃料の種類自体を増やすことも、日本の交渉力を強める効果がある。


 水素の供給体制が整えば、水素を使うアプリケーションの普及スピードも
飛躍的に早くなるはずだ。


産業の裾野が広く、日本企業が優位な製品が多いのも見逃せないポイントだ。
その代表格が、エネファームとFCVだろう。


東京ガスとパナソニックは 新型のエネファームを発表。


投入したガスに含まれるエネルギーのうち、電力や熱として利用できた割合を示す
総合効率は95.0%と、世界最高水準に到達した。


燃料電池本体の技術進化にくわえ、部品点数を2割ほど減らすなどの工夫を重ね、
現行品に比べて約75万円の値下げを実現。


初めて200万円を下回る価格を設定した。
新型機は年産1万5000台を目指すとしている。


 パナソニックは、ドイツと英国に研究開発拠点を設立済み。
ドイツのボイラーメーカーとも提携しており、海外進出に向けた準備を着々と重ねている。


エネファームは、パナソニックらのほか、東芝や京セラなども開発を進める。
家庭への燃料電池導入量で、日本は世界のトップを独走している状況だ。


「HyGrid(ハイグリッド)構想」と言われ、
電力を水素に変えて貯める方法を指す。


 ハイグリッド構想は、トヨタと川崎重工が水面下で検討してきた。
国は2015年に向けて、4大都市圏で合計100カ所の水素ステーションを整備する方針を固めている。



 3・11に端を発するエネルギー危機は、

日本企業の背中を新しいステップへと押し上げている。

その1つが水素であることは間違いない