来年 世界及び日本のファンダメンタル展望
OECD(経済協力開発機構)は先月、最新の経済見通しを発表し、ユーロ圏の
景気懸念や世界的な貿易・投資の伸びが鈍化していることなどを理由とし、
世界の経済成長率を半年前の予測から下方修正した。
「世界経済は依然として健全な回復であるとは言えず、ユーロ圏の停滞が
世界的に影響を与える可能性がある」と指摘。
成長率見通しは、2014年で3.3%、2015年で3.7%となり、
OECDが5月に予測した2014年3.4%、2015年3.9%からそれぞれ引き下げられている。
この成長率の鈍化は特に中国経済において顕著に数字で表れており、
中国人民銀行は、2015年の中国経済成長率は、今年見込まれている
7.4%から7.1%に減速する可能性があるとの見方を示した。
中国経済は、海外需要の改善で輸出が増えるものの、
国内の不動産投資低迷の影響が大きいという見方である。
2015年の中国の固定資産投資の伸びは今年の15.5%から2015年には12.8%に鈍化、
一方で小売売上高は12%から12.2%に伸びると予想している。
消費者物価の上昇率は2.2%でほぼ変わらずとなる見通しだ。
既に発表されている中国の国家統計局による2014年7月~9月期の国内総生産(GDP)の
成長率は、物価の上昇分を除いた実質で前年同期に比べて7.3%となり、
4月~6月期から0.2ポイント減速している。
成長率はリーマン・ショック直後の2009年1月~3月期以来、
5年半ぶりの低水準となっている。
この数字に、低調な11月の工業生産や投資の統計からみると、今年の成長率は
政府目標の7.5%に届かず、過去24年で最低の伸びとなる公算が大きくなっている。
また中国人民銀行の報告書では、来年予想される米国の利上げについては
新興国市場に悪影響をもたらすと警告している。
中国だけではない。アジア開発銀行も、2015年のアジア新興国の成長率見通しを
6.2%とし、9月時点から0.2ポイント引き下げた。
域内先進国を除くアジア大洋州の45ヵ国と地域を対象としており、
2015年は6.4%から6.2%に、2014年も6.2%から6.1%にそれぞれ引き下げた。
欧州や日本などの経済成長の減速の影響が大きく、
アジア地域での貿易や投資での先進国依存が改めて浮き彫りになった格好だ。
アジア全体の成長率を押し下げているのは、
もちろん域内最大の中国経済の減速である。
アジア開発銀行では、中国の2015年の経済見通しを
0.2ポイント引き下げて7.2%とした。
OECDの予測よりも0.1ポイント高いが、
中国の景気減速はもはやコンセンサスとなっているといってよいだろう。
また、東南アジアはインドネシアのインフレ懸念などを考慮して、
2015年の見通しを0.2ポイント引き下げて5.1%とした。
カザフスタンなどの中央アジアは、通貨急落や信用不安に直面する
ロシアの影響が出るとわれている。
ただし、最近の原油相場の下落に関しては、アジア新興国の多くは原油の輸入国のため、
原油安は輸入コストの低下につながり、経済に好影響を及ぼす可能性がある。
米国の来年の経済見通しは、12月18日(木)今年最後に開かれたFOMCで、
FRBは来年の米国経済についてGDPは2.6%~3%のプラス成長、
現在5.8%の失業率は、来年第4四半期には5.2%~5.3%まで下がり、
景気や雇用が順調に回復を続けるとの予想を発表した。
外国為替市場や株式市場で焦点となっているゼロ金利政策については、
これまでの「相当な期間続ける」という表現を声明の中に残しつつ、
「政策転換を始めるまで辛抱強く対応する」という表現を新たに加えた。
FRBは過去にもこの表現を盛り込んだあと利上げに踏み切っており、
来年中に予想される利上げに向けて一歩、認識を前に進めたものとも言える。
ただし、FRBは「経済指標の改善が加速すれば利上げは予想より速くなり、
改善が遅れれば利上げも後ずれする」として、引き続き雇用情勢の改善などを
見極めながら利上げの時期を探る姿勢も強調した。
FRBのイエレン議長は、「表現の追加は、これまでの方針を変更するものではない」
と繰り返し強調し、ゼロ金利政策による景気の下支えを今後も続ける姿勢を示したほか、
ゼロ金利解除の時期について「少なくともむこう2回の会合では利上げは行われないだろう。
判断は、あくまでも今後の経済指標次第だ」と述べ、
市場の一部でくすぶる早期の利上げ観測を牽制した。
この発言を受けて、18日の米国株式市場では、ダウは前日比421ドル高と
3年ぶり上昇幅を記録して高値で引け、週末の日本株も米国株高、
円安・ドル高の流れから大幅上昇となった。
今月5日の雇用統計によって、米国経済は雇用の伸びを背景に堅調な拡大が
続いていることが確認できている。
米労働省発表の雇用統計によれば、11月の非農業部門雇用者数(季節調整済み)は
前月比で32万1000人増と、2012年1月以来、最大の増加幅を記録した。
市場予想が23万人増だったので、市場にはサプライズが漂い、
株式市場でのダウ上昇の要因ともなった。
来年も引き続き雇用の伸びは期待できることから、家計の消費や政府支出、
公的投資が米国の成長率を下支えすることが予想される。
また、企業設備投資も企業センチメントの改善などから
実質購買力を増加させる効果が見込まれる。
住宅投資も労働市場の改善を背景に緩やかな回復が期待されている。
米国経済は、2015年にかけてはFRBによる出口戦略が成長の抑制要因として働く可能性も
あるが、原油価格の下落などが内需を牽引し、底堅く成長線を描いていくことになるだろう。
米国経済のリスク要因としては、海外経済(主に欧州、中国、日本の成長鈍化)
の動向とオバマ大統領の国内政治におけるリーダーシップの有無が挙げられる。
11月の中間選挙で野党である共和党が勝利し、オバマ大統領のレームダック化が
確実となるなか、議会と大統領の対立が深刻化しており、国内政治の混乱で
連邦債務の上限延長などで政治的空白が生まれるかもしれないことが挙げられよう。
次の大統領候補として、共和党からはブッシュ前大統領の弟で元フロリダ州知事の
ジェブ・ブッシュ氏が、民主党からは、いまも人気が高いビル・クリントン元大統領の
ファーストレディとして活躍し、国務長官としても実績を残したヒラリー・クリントン氏
の出馬が有力視されている。
中間選挙では共和党が一気に議席を奪ったが、
比較的ウォール街の投資家には寛容と評される両名だがはたして……?
日本の場合はどうだろうか。
日本の2014年度の実質GDP成長率は前年比マイナス0.8%と2009年度以来、
5年ぶりのマイナス成長に陥る見込みである。
設備投資、輸出が増加して景気を押し上げるが、実質所得の落ち込みを背景に
家計部門の持ち直しが鈍いため、下期の回復ペースも緩やかにとどまる見込み。
ゲタ分の成長率が+0.9%であるから、GDP成長率のゲタを除いた年度中の
成長率では、マイナス1.7%と大幅なマイナスになることが予想される。
内外需の寄与度は、内需が前年比マイナス1.3%とマイナス寄与に転じるのに対し、
外需は+0.5%と2010年度以来のプラス寄与に転じる見込みである。
しかし、消費税率の引き上げによる家計部門の落ち込みを十分に
カバーできるほどの力強い伸びではない。
日本貿易会では、日本の貿易収支に関して、2015年度の輸出総額は前年度比3.5%増の
75 兆4,270億円とし、世界経済の緩やかな回復を受けて輸出数量は同0.9%増加、
円安傾向が続き輸出価格は同2.6%上昇するとの予想を示している。
輸入総額は前年度比1.4%増の85兆8,840億円となるみこみ。
国内は緩やかな景気回復が進むものの、
輸入数量は同0.4%増とほぼ横ばいにとどまる模様。
資源価格の下落傾向は継続し、円安の影響を一部相殺することから、
輸入価格は同1.0%の上昇を予想している。
その輸出と輸入の内訳を見てみると、来年の株式市場のテーマが見えてくる。
まず輸出であるが、世界経済の回復に加え円安の進行もあり、
前年度比3.5%増と3年連続の輸出増加となる見込み。
輸出数量で前年度比0.9%増、輸出価格で
同2.6%の上昇が予想されている。
商品別に見ると、船舶は円安による輸出価格の上昇もあり輸出額は拡大する。
自動車は、世界経済の回復による需要増も、海外生産の進展により数量ベースでは
微増にとどまるものの、円安による輸出価格上昇もあるため、
輸送用機器全体では同4.6%の増加となる見込みである。
機械は、世界経済の回復に伴う設備投資向けの金属加工機械や、インフラ投資向けの
建設機械の増加等により同4.2%増となるが、電子機器は、堅調な設備投資に伴い
計測機器などは輸出が拡大するものの、スマートフォンの低価格化等に伴う電子部品の
輸出不振もあり、電気機器全体では1.9%の伸びにとどまることが予想される。
原料別製品では、鉄鋼や非鉄金属の数量は頭打ちとなるものの、
円安による輸出価格の上昇もあり緩やかな増加を継続が見込まれる。
食料品は、円安の進行による価格上昇に加え、世界経済・新興国経済の発展に
伴う高品質な食品への需要が増えることから、前年度比13.7%増と相対的に
早期の成長を維持できるとされている。
輸入に関しては、国内景気の緩やかな回復に伴う輸入増に円安の進行が加わるが、
資源価格の下落が一部相殺し、輸入は前年度比1.4%増にとどまる見通しである。
内訳は、輸入数量が同0.4%増、輸入価格が同1.0%の上昇となる見込みだ。
商品別では、鉱物性燃料は電力需要の減少に加え、一部原子力発電所の再稼働により
火力発電用の燃料輸入が小幅ながら減少し、さらに資源価格の下落が円安の進行を
上回ることから、輸入は2年連続で減少するとの予測が成り立つ。
原料品は、鉄鉱石価格の下落が継続、一部は円安により相殺されるものの
輸入額は減少、原料品全体の輸入は6.6%減少する。
電気機器は円安による輸入価格の上昇に加え、2015 年5月のSIMロック解除の
義務化に伴う通信料の低価格化に伴いスマートフォンの輸入が増加するものとみられる。
原料別製品では、繊維分野で調達先変更を通じた輸入単価抑制の動きはあるものの、
円安による全体的な輸入価格の上昇により輸入は増加し、
輸入総額を押し上げる効果はあるだろう。
その他、食料品や一般機械、輸送用機器等も輸入数量は横ばいないし微増に
とどまるものの、円安による輸入価格上昇から輸入額は増加することになる。
現時点で 日本経済が2015年V字回復するというのは、あまり考えにくい。
2015年も個人消費や輸出の伸び悩みを背景に、引き続き緩慢な回復ペースで
成長を維持していき、通年の成長率も+1.2%程度の伸びにとどまるのではなかろうか。
民間シンクタンクの2015年実質GDPの予測は、おおむね+1%~+1.6%の間で誤差があり、
2014年度のような消費税増税後、経済のV字回復からプラス成長期待が、
まさかのマイナス成長になるような場面は想定していないにしても、
経済成長のスピードは緩慢なものに留まるものと思われる。
理由は2014年度の7月期~9月期のGDPのマイナス成長の要因にもなった
個人消費の弱さが根本的には解決されていないからだ。
物価の上昇に実質賃金の上昇が追いつかない限り、
個人消費の弱さは改善されないだろう。
個人消費は、実質賃金の低下に加え、さまざまな家計負担の拡大が
続くことなどから、緩慢な回復にとどまるものとみられている。
設備投資は、建設的な更新・合理化投資が自然の下支えとなるものの、輸出の伸び悩み
などで利益を積みませなければなかなか力強い回復軌道には乗りづらいものと思われる。
公共投資は、2013年度補正予算と2014年度予算の工事執行が進むことで
緩やかな増加傾向にななるだろうが、資材価格、人件費の高騰から政府、
日銀の思い通りに企業に潤いが浸透するまでには時間がかかるだろう。
いくら補正予算を組んだところで、工事に着手できないで事業費が
宙に浮いている場面を今年は何度も目にしてきた。
たしかに、景気はすでに下げ止まっているという声もあるが、
一部に持ち直しの動きがみられているというところが現状ではないだろうか。
今後は徐々にその持ち直しの動きが広がってくることが期待され、
実質GDP成長率も10~12月期以降は前期比でプラス基調が続く、
消費税率引き上げの影響が薄らいで個人消費の緩やかな増加が
続くことに加えて輸出が増加し、設備投資が持ち直してくる……
これが安倍首相のアベノミクスの道である。
ただし、速すぎる円安シフトへの対応は輸入企業の業績を悪化させてしまう。
現に円高倒産よりも、円安倒産のほうが規模的には少ないものの、
企業の数だけでいえば、急激な円安に対応できずに
倒産に追い込まれる企業のほうが多い。
消費税率の引き上げ延期により物価上昇のスピードが落ち着いている
いまこそ、アベノミクスの真価が問われよう。
様々な要因で、2015年は好調な米国経済が鍵となる。
米国がくしゃみをすれば、日本は風邪を引くと言うが、
いい意味での影響であれば歓迎である。
円安の急速な進展により、輸入企業の業績がさらにマイナスに働くため、
輸出企業の業績が好調だからといって、まだまだ楽観はできない。
ただし、安倍首相のアベノミクスもいよいよ本腰を据えて
成長戦略に取りかかることになる。