スーパー「世界ビッグ3」はなぜ日本で勝てないのか
イギリスのテスコ、フランスのカルフール、アメリカのウォルマート――。
圧倒的な調達力と優れた小売り技術を持つ彼らが、
日本では苦戦を強いられている。
どうしてなんだろう
テスコが撤退を表明した。
同社は、イギリスを本拠地とする巨大スーパーマーケット・チェーン。
売上高は7兆円を超え、日本のビッグ2のイオンやセブン&アイを大きく凌ぐ。
アジア、欧州、北米の14カ国で店舗を展開し、日本には2003年に参入した。
スーパーマーケットTESCOのほか、食品店「つるかめランド」を運営した。
TESCOは、これまで8年間、日本の小売市場での定着を図ったが功を奏さず。
採算が取れない日本での事業を売却することになった。
同社は、CRM(顧客管理)の優れた手法を持っていることで有名。
ポイントカードの購買履歴を使い、きめ細かい顧客分析を行って、購買傾向や好みを把握し、
それを店頭の品揃え・陳列、プロモーションや顧客へのダイレクトメールに生かすことで
集客力を高める手法である。
日本でも、そうした試みをする先進的小売企業は少なくないが、そのお手本となっている。
日本でその手法がどれだけ通用するのか見たかったのだが、
使いこなすまでに至らなかったようだ。
■コモディティではなくブランドで選ぶ日本人
世界で活躍する大手小売企業も、日本では苦戦する。
こと食品に限定しても、世界2位のフランスのカルフールは7年前に撤退した。
世界1位のアメリカのウォルマートも、なかなか調子が出ない。
最近ようやく、西友を完全子会社にして巻き返しを図る。
彼らは、圧倒的な規模を背景として世界的な調達力と優れた小売り技術を持っている。
それにもかかわらず、わが国では ぜんぜん目が出ない
その理由として、もっとも重要と思われるのは、日本の生活者の食文化にありそうだ。
われわれは、ほぼ毎日、鮮度の高い食材(生鮮3品と言われる鮮魚、肉、野菜・果物)を食べる。
しかも、一口に鮮魚といっても、地域によって異なる多彩な産品と、季節ごとに異なる旬のものがある。
野菜も、地域ごとに食する種類は大きく異なり、また季節ごとに食する種類は異なる。
生鮮3品における「鮮度と多様性と旬」の存在は、わが国の伝統的小売業を形づくる基礎的要因だ。
戦後生まれたチェーン経営を軸とする食品スーパーも、実のところこの「鮮度と多様性と旬」の
壁をなかなか越えることはできなかった。
スーパーマーケットが出始めた頃、1960年代から70年代にかけて、
「スーパーは、安かろう、悪かろう」と言われたが、
それはこの壁を越えることができなかったせいである。
それを打ち破ったのは、関西スーパーでありサミットストアであった。
彼らは、店舗内に広いバックヤードをとり、個人の職人技としてではなく組織として
生鮮を扱う設備技術やノウハウを蓄積した。80年代のことである。
その時期を境にして、それまで「鮮度と多様性と旬」の扱いにおいて圧倒的な
優位を誇ってきた小売市場や商店街の生鮮3品の商店が、上記の食品に特化した
スーパーマーケットとの競争に苦戦することになる。
「鮮度と多様性と旬」のある商品を扱うための技術に加えて、もう一つ、
速い商品回転率の経営を確立する必要がある。
加工食品や日雑商品のように本部で一括して大量・安価に仕入れて、チェーン各店で
売り減らすという手法は、この種の商品には通じない。
できる限り在庫を切り詰め、次々に商品に入れ替えるスピードがカギになる。
商品回転率志向の経営は、世界の大手小売企業の目指す方向ではない。
たとえば、世界のウォルマートと日本でポジションを確立したイトーヨーカ堂の
回転率の違いを見ればわかる。
02年のデータの比較だが、在庫回転率では、イトーヨーカ堂のほうが倍くらい高い。
他方、販売管理費ではウォルマートが、売上高割合で10%ほど低い。
この結果を見ると、ウォルマートが調達力とコスト削減力を背景にして競争優位を
確保する経営であること、そしてイトーヨーカ堂は速い商品回転率で
勝負していることがわかる(スレーター『ウォルマートの時代』日本経済新聞社)。
回転率におけるこの大きな違いは、同じ小売業と言っても、やり方に根本的な
違いがあることを示すものである。
世界の大手小売企業が日本に適応しようと思えば、自らが展開してきた経営の
流儀を根本から変えないといけないということになる。
日本人は、食べ物の「鮮度と多様性と旬」を大切にする
そのため 独特の買い物行動が生まれる。
鮮度の高い食材を求めて、ほぼ毎日買い物に出る。
自家用車と大型冷蔵・冷凍庫という大量購買・長期保存の手段が
ほとんどの家庭に普及したが、高い買い物頻度の習慣はそれほど変化しない。
第二に、食への繊細な好みが背景にある。
魚とか肉とかといった大雑把な「コモディティ・レベル」で食材を選ばない。
もっと繊細なレベル、たとえば神戸の霜降り、京の野菜、明石の魚、
泉州の水ナス、新潟のこしひかりといった、いわば「ブランド・レベル」で識別する。
それらブランドへの信頼は、強まりこそすれ、薄れる気配はない。
こうした食文化が、独特の小売り活動を要請する。
第一に、日々変化ある店頭への要請。
それに応えて、小売店での商品入れ替えスピードは速い。
第二に、地域ごとに異なる食材ニーズに応える店対応への要請
ローカル・スーパーが大手総合スーパーに対して互角の勝負をしているのは
きめ細やかやな品揃え
「標準化された商品の週に一度のまとめ買い」や「Every Day Low Price」を
標榜する欧米大手小売企業の戦略では、そうした要請に応えることはできない。
食文化の伝統は、まさに独自の小売業を生み育て、そして海外からの参入の
天然の要塞となって守っているのである。