給与明細に減税額を記載するように義務づけるという話。日本中の給与事務担当者がブチ切れているのではないか。

 

定額減税 給与明細に所得税の減税額を明記 企業に義務づけ | NHK | 税制改正

 

ニュースは5/21だが、調べてみると根拠となる省令は3/30に公布されている(6/1施行)。なぜ今頃になって騒いでいるのだろうか。そもそも給与明細は法律でどのように決められているのか?、何を記載するのか決まっているのか?を調べてみた。

 

まず労働基準法には記載なし。

(24条に賃金の支払についての規定あり 通貨払い、直接払い、全額払い、毎月1回以上支払う)

 

次に所得税法

所得税法

 

第二百三十一条 居住者に対し国内において給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、財務省令で定めるところにより、その給与等、退職手当等又は公的年金等の金額その他必要な事項を記載した支払明細書を、その支払を受ける者に交付しなければならない。

2 前項の給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、同項の規定による給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払を受ける者の承諾を得て、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。ただし、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払を受ける者の請求があるときは、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書を当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払を受ける者に交付しなければならない。

3 前項本文の場合において、同項の給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、第一項の給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書を交付したものとみなす。

 

法律では支払明細書という名称で、交付義務がある。2,3は電子的に交付してもよいと書いている。何を書くのかは省令で定めるとある。

 

所得税法施行規則

 

第百条 法第二百三十一条第一項(給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書)に規定する給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、同項の規定により、次に掲げる事項を記載した支払明細書を、その支払の際、その支払を受ける者に交付しなければならない。

一 その支払に係る法第二百三十一条第一項に規定する給与等、退職手当等又は公的年金等の金額

二 前号の給与等、退職手当等又は公的年金等につき法第四編第二章(給与所得に係る源泉徴収)、第三章(退職所得に係る源泉徴収)又は第三章の二(公的年金等に係る源泉徴収)の規定により徴収された所得税の額(法第二百二十二条(不徴収税額の支払金額からの控除及び支払請求等)の規定により控除された金額を含む。)

三 法第百九十一条(過納額の還付)の規定により還付した金額

四 租税特別措置法第四十一条の三の七第三項(令和六年六月以後に支払われる給与等に係る特別控除の額の控除等)に規定する給与特別控除額のうち同条第一項又は第二項の規定により控除した金額

 

1で給与額、2で源泉徴収額、3が年末調整の還付額、4が今回追加された「減税額」だ。所得税法なので、所得税についてしか書いていない。公的機関が天引きしている他のもの(健康保険、介護保険、年金、雇用保険、住民税)についても同じように決められていると思われるが調査していない。

 

 

 

 

ちなみに減税そのものは以下に記載されている。

 

租税特別措置法第四十一条の三の三~十

 

第四十一条の三の三 居住者の令和六年分の所得税については、その者のその年分の所得税の額から、令和六年分特別税額控除額を控除する。ただし、その者のその年分の所得税に係るその年の合計所得金額(所得税法第二条第一項第三十号の合計所得金額をいう。以下この節において同じ。)が千八百五万円を超える場合については、この限りでない。

2 前項に規定する令和六年分特別税額控除額は、居住者について三万円(同一生計配偶者(所得税法第二条第一項第三十三号に規定する同一生計配偶者をいい、居住者に限る。以下この節において同じ。)又は扶養親族(同条第一項第三十四号に規定する扶養親族をいい、居住者に限る。以下この節において同じ。)を有する居住者については、三万円に当該同一生計配偶者又は当該扶養親族一人につき三万円を加算した金額)とする。

(略)

 

第四十一条の三の七 令和六年六月一日において給与等(所得税法第百八十三条第一項に規定する給与等をいう。以下この条及び次条において同じ。)の支払者から主たる給与等(給与所得者の扶養控除等申告書(同法第百九十四条第八項に規定する給与所得者の扶養控除等申告書をいう。第三項第一号及び第二号並びに次条第二項第二号において同じ。)の提出の際に経由した給与等の支払者から支払を受ける給与等をいう。以下この項及び次項において同じ。)の支払を受ける者である居住者の同日以後最初に当該支払者から支払を受ける同年中の主たる給与等(同年分の所得税に係るものに限り、同法第百九十条の規定の適用を受けるものを除く。次項及び第五項において「第一回目控除適用給与等」という。)につき同法第四編第二章第一節の規定により徴収すべき所得税の額は、当該所得税の額に相当する金額(以下この項及び次項において「第一回目控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額」という。)から給与特別控除額を控除した金額に相当する金額とする。この場合において、当該給与特別控除額が当該第一回目控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額を超えるときは、当該控除をする金額は、当該第一回目控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額に相当する金額とする。

2 前項の場合において、給与特別控除額を第一回目控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額から控除してもなお控除しきれない金額(以下この項において「第一回目控除未済給与特別控除額」という。)があるときは、当該第一回目控除未済給与特別控除額を、前項の居住者が第一回目控除適用給与等の支払を受けた日後に当該第一回目控除適用給与等の支払者から支払を受ける令和六年中の主たる給与等(同年分の所得税に係るものに限り、所得税法第百九十条の規定の適用を受けるものを除く。以下この項において「第二回目以降控除適用給与等」という。)につき同法第四編第二章第一節の規定により徴収すべき所得税の額に相当する金額(以下この項において「第二回目以降控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額」という。)から順次控除(それぞれの第二回目以降控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額に相当する金額を限度とする。)をした金額に相当する金額をもつて、それぞれの第二回目以降控除適用給与等につき同節の規定により徴収すべき所得税の額とする。

3 前二項に規定する給与特別控除額は、三万円(次に掲げる者がある場合には、三万円にこれらの者一人につき三万円を加算した金額)とする。

一 給与所得者の扶養控除等申告書に記載された源泉控除対象配偶者(所得税法第二条第一項第三十三号の四に規定する源泉控除対象配偶者をいい、居住者に限る。第四十一条の三の九第三項第一号において同じ。)で合計所得金額の見積額が四十八万円以下である者

二 給与所得者の扶養控除等申告書に記載された控除対象扶養親族(所得税法第二条第一項第三十四号の二に規定する控除対象扶養親族をいい、居住者に限る。次条第二項第二号及び第四十一条の三の九第三項第二号において同じ。)

三 第五項に規定する申告書に記載された同一生計配偶者(第一号に掲げる者を除く。)

四 第五項に規定する申告書に記載された扶養親族(第二号に掲げる者を除く。)

 

3の3が原則で、7は源泉徴収の計算方法(6月以降減税額を使い切るまで0にする)を書いている。

 

 

控除できない人(納税額が減税額に足りない人)には給付金を出すと言っているのだから、もはやこれは減税ではない。どう考えても給付金にした方が事務的に楽だと思うのだが、なぜこんな面倒なことをしているのだろうか。

 

なんとしてでも6月に金を配らないといけない理由があったとしか思えない※1。給付金だと、法律が3月末にできても6月に間に合わないのだろうか。給付金だと叩かれると判断しただけの可能性もある。

 

多くの企業では6月は賞与支給月であることも併せて考えると、国(というか自民党)の意図が見えてくる。所得税は6月から減税分を使い切るまで0が続く。給与となっているので、賞与も減税の対象になる。扶養家族が何人かいれば、今回のボーナスは所得税0になる人が多いだろう。額面が上がっていなくても手取りは大幅に増えることになる。

 

住民税は6月分を0にして、減税後の金額を7月~来年5月までの11で割ることになっている。こちらの方が意図が明確だ。なんとしてでも6月の手取りを増やさないといけないということだ。3月の時点では、6月に衆議院を解散して総選挙をするつもりだったのではないか。

 

※1 いつでもいいなら年末調整で減税をやればこんな面倒なことにはならない。