彼女「えっ?」










少し驚いた表情を見せる彼女。










しかし、そこに嫌悪感は表されてなかった。










KEN「はい。」










KENは彼女のその行動にたじろぐこともなく










もう一度、彼女の前に手を差し伸ばす。










彼女「…」










KEN「…」










彼女「…」










KEN「…」










二人の間にうっすらと男女の空気が流れる。










彼女「…」










うつむいていた彼女だったが











やがて顔を上げた。











彼女「(スッ)」










KENの差し出す左手に、自らの右手を重ね










そして











するりと自分の指を隙間に絡ませた。










KEN「じゃあ、行こうか?」










さもこの行動が当然かのように振る舞い歩き出す。










彼女「あっ。」










一旦、立ち止まり声を出す彼女。










彼女「ちょっと待ってください。」










繋がれていた二人の手は音もなくほどかれた。










彼女「ちょっと家に電話したいことがあって。」










そういって、彼女はバッグからスマホを取り出した。




















彼女「あっ、すみません。ちょっと色々あって。」










KEN「とりあえず行こうか。」










手元の電話がなくなった彼女の右手を再び取る。










そして











二つの貝殻は再び重なりあった。




















KEN「手、冷たいね?」










笑うように彼女に問いかける。









彼女「えっ、あっ、ごめんなさい。」










ほんのり申し訳なさそうな表情をうかべた。










彼女「私、ちょっと冷え性なので。」










少し慌てるようにして答える彼女。










KEN「大丈夫だよ、別に悪く思ってないから。」










なんてことないフォローをさらっと入れた。










彼女「そうですか?」










すると安堵な表情を浮かべる彼女。










KEN「…」










彼女「…」










周りから見ればただの恋人同士に見える二人。










その時間は儚くも美しく特別な時間だった。





























KEN「あのさ、もしかして。」










彼女の方を向き話しかけるKEN。




















彼女「?」










またしても疑問の表情を浮かべる彼女。




















KEN「男の人とこうやって手繋ぐの初めて?」










と問いかけた。



















彼女「えっ。」










また少し驚きの表情を浮かべた。



















彼女「あっ、はい…」










そして











恥ずかしげな表情を浮かべ











ゆっくりとうなずいた。




















KEN「そうなんだ。」










特に感情を表に出されることなかった。




















KEN「俺が初めてでいいの?」










と改めて聞いた。



















彼女「え?」










先程と同じように驚き











そして



















彼女「あっ、はい…」










同じように恥ずかしげな表情を浮かべた。



















彼女「あっ、でも幼稚園のときに男の子と繋いだかも。」










KEN「それは入れていいのかどうなんだろうね?」










彼女「(クスッ)」










出会い頭に見せた口元を隠すような笑顔を見せ










二人の間の雰囲気は一気に変化を見せた。










それからの道なりはまるで恋人同士そのものだった。




















そして










ずっと心に決めていた。




















壊れるようなものに




















もう手は出さないと。



















KEN「じゃあ、気をつけて。」










KENは右手を上げ、彼女は改札前でこちらを向いている。










繋がっていた二人の交差は互いにどちらともなく離れた。










彼女「今日はありがとうございました、色々とお話できて楽しかったです。」










KEN「こちらこそ。」










もう一度KENは右手を上げて一言入れる。










彼女の方も軽く右手を上げて










「それでは」











と、さよならに代わる言葉を告げ










ゆっくりと下ろしては











改札の人混みに消えていった。











彼女の背中を見送ることはないままに。










去り際に映されたその彼女の横顔はとても綺麗で










どこか物寂しげな表情をしていたのを今でも覚えている。




















彼女の白くてしなやかな指先の冷たさは










まだKENの左手にはっきりと残されている。



















心の奥に咲いた花びらは









ゆっくりと熱をはらみ









焼かれていった。



















【考察】
出撃もロクにせず長らく結果の出ない日々であったが、非常に心に残る案件だった。



冒頭にも記載したが、最近では弾丸即にコミットした声掛けを心がけている。

ただ、今回の案件は即系の真反対にあたる(と言われている)清楚でかつ恋愛経験が少ない子であった。

もちろん本心の部分はわからないが、話していく中で見える彼女の人間模様からすると概ね当たってると言える。



恋愛経験が少ない子(おそらくゼロ)の子は主導権を握ったり、感情を揺さぶったりするのは、そこまで困難ではないが

最後の最後で強靭な自制心が働き、なし崩し的な結果になってしまうことが多い気がする。

事実、チャラ開示をしたときも微妙な反応となり、自らの固定概念から外れた行為は「悪」と捉えられる傾向がある。

ここに対して、それなりの自論を展開するとドンドンと気持ちは離れていき、逆効果となってしまう。

このような流れになった際に、一旦引いてみる姿勢を見せるべきだった。



自分がナンパを始めた本来の目的は、今回の案件のようなタイプをゲットすることとしていた。

正直、今の自分のスタンスは軸がブレてしまっているところが否めない。

片方だけに振り切ってしまい、アンバランスなナンパをしているのが事実である。

その場その場に合わせた臨機応変な対応を心がけたい。