某日某所
彩りのあるたくさんの灯りがあたり一面を照らしている。
人は皆、残りわずかとなる年の瀬を楽しむかのように歩いている。
そんな賑やかな足取りと同じようにKENはいつもの仲間たちといつものところにいた。
仲間「最近どうですか?」
KEN「やることも色々あって全然さっぱりですわ。」
仲間「まあ、今は大変な時期ですからね。」
KEN「そうですね。」
彼にはナンパに限らず仕事面でもかなり助けられていた。
最近の自分の近況を報告しつつ談笑を楽しんでいる。
こちらの心情や状況を汲み取り丁寧な言葉を選んでいる。
これが彼の最大の強みだと思う。
仲間「あっ、あの子良さそうじゃないですか?」
彼の視線の先に目をやるKEN。
前からやって来るのは、背丈が小さく白いコートに黒の底が高いブーツ、黒い小さなバッグを両肩に背負っている。
KEN「ちょっと行ってきます。」
仲間にそう告げ彼女に近づくように歩き出した。
KEN「あれ、向こうから歩いて来るってことはホスト帰り?」
彼女「えっ?笑」
KENは右手を上げ、フロントからアプローチをした。
KEN「向こうから来るってことは大体ホスト帰りだからさ。」
彼女「ワカラナイデス笑」
前髪パッツンで両耳の前の髪だけは長くアイドルのような髪型、メイクをそこまで濃くなくナチュラルだ。
彼女は笑いながらKENの話を聞いていた。
KEN「絶対、日本人でしょ?」
彼女「チガイマス笑」
KEN「だってすごい流暢に話せてるよ?」
そんな感じで並行トークを繰り返していたときである。
彼女「ごめんなさーい!本当は日本人なんです!笑」
満面の笑みで彼女はKENに謝ってきた。
KEN「やっぱりね、でもそうやって日本語わからないフリするってことはよく声掛けられるんでしょ?」
彼女「いや全然ですよー、本当に声掛けられないですよ?」
よくある決めつけからの当たり障りない回答が返ってきたが、決して真に受けず聞き流すように並行トークを続ける。
KEN「お姉さんの雰囲気が良かったから声掛けたんだよ?」
彼女「はい笑」
彼女は相変わらずニコニコしながら聞いている。
KEN「だから、ちょっとだけ飲み行こう。」
彼女「えー笑」
彼女から初めてグダが出る。
形式なのは火を見るより明らかだ。
彼女「ダメですよー、明日早いんですから。」
KEN「ホントちょっとだけだから、軽く飲むだけだよ。」
そう言って居酒屋の導線を意識する。
KEN「別に無理に飲ませたりしないよ、俺も飲めない体質だから。」
彼女「飲むよりお腹空きました!」
ここで初めて彼女から要求が出る。
決して「奢る」と言わずに彼女を連れ出すために放たれた言葉は。
KEN「ちょうどいいじゃん、俺は軽く飲むから軽く食べれば。」
あくまで一緒に食事をするという意味合いのフレーズを投げかけた。
彼女「でも私、飲めないですよ?」
KEN「そう、ところで何歳?」
彼女「19歳です。」
KEN「それじゃ、ソフトドリンクで乾杯だな。」
そういって彼女の背中に手を添える。
彼女からの拒否反応はない。
KEN「30分だけ行こう。」
時間を指定してハードルを下げようとする。
彼女「じゃあ30分経ったら帰りますよ?」
彼女の足取りはゆっくりとなり、居酒屋に二人は消えて行った。
KEN「とりあえず上着脱いで、そこに入れときな。」
荷物入れを指差し、小さい命令を取り入れ、主導権を徐々に握りに掛かる。
彼女「はい。」
そう言って彼女は着ている白いコートを脱ぎ、黒いカバンと共にカゴに入れた。
話題は案の定ホストの話となった。
KEN「担当のホストが好きでたまらないんだ?」
彼女「うん、本当に大好き!結婚したい!」
彼女はとびきりの笑顔でそう答えた。
KEN「そんなに良い人なんだ?」
彼女「うん、この前一緒にプリ撮ったんだけど…」
そう言って彼女はスマホの画面をKENに見せてきた。
KEN「へぇ」
そこには金髪で目が大きく、メイクもしっかりの中性的な男が彼女と二人くっつくように並んでいた。
彼女「今度、一緒に横浜にデートに行くの。」
KEN「うん。」
彼女「でも、なかなか予定が合わなくて。」
KEN「うん。」
彼女「彼は『本気だよ』って言ってくれてるんだけど…」
KEN「ふーん。」
「彼」というのが「彼氏」という意味で言っているように聞こえ、それを口に出しそうになったが、そこはグッと堪えた。
あまり積極的に声掛けして来なかったタイプだけに解がわからない。
気まずくもなく話もそれなりに弾んでいるが、和んでいるというわけではない。一旦ここはセオリー通りでいってみるか。
KEN「今までどんな恋愛してきたの?」
ありきたりな質問を投げ掛ける。
彼女「えっ?」
少し驚いたような表情でこちらを見返す彼女。
KEN「どんな人と付き合ってきたのってこと。」
彼女「うーん…」
今度は困ったような表情を浮かべ彼女は下を見つめる。
彼女「あまりちゃんとした恋愛はして来なかったんだ。」
KEN「でも付き合ったことがないわけじゃないでしょ?」
自信なさそうに答えた彼女に、真顔で質問するKEN。
彼女「うん、今までは3人。」
KEN「じゃあ初めての彼はどんな感じで付き合ったの?」
ゆっくりと彼女の恋愛観に触れていくKEN。
彼女「最初の彼は…」
またしても答えに詰まり
彼女「高校のときネットで知り合った人、しかも1日しか付き合ってないし。」
KEN「へえ。」
表情を変えずに返答をするKEN。
彼女「しかも会ったその日にそのままホテル行って、初めてもその人だった。」
KEN「そうなんだ。」
落ち着いて返答をした。
彼女「その後に付き合った人もよくわかんない感じで…まあそんな感じかなぁ。」
ニコニコしていた彼女が元気を失くしていたのが目に見えてわかった。
これ以上、深掘りするのは無理だと思った。
そんなことを考えているときである。
彼女「今、何歳なんですか?」
KEN「えっ?」
初めて彼女から質問があった。
彼女「いや、何歳なのかなぁと思って。」
実年齢を答えるKEN。
彼女「えー、若い!◯◯歳くらいかと思った!」
KEN「うん、よく言われるな。」
彼女「格好や髪型もホストっぽいよね。」
KEN「あぁ、そう。」
ここで謙遜したら非モテ感が出て格下に見られてしまう。あたかも日常かのように振る舞えることで余裕が出る。
彼女からの褒め言葉にも感情を出すことなく平然と答えた。
彼女「最近の中学生や高校生を見て若いなーって思っちゃう。」
KEN「19歳でそれ思うのは早くないか。」
彼女「いやぁ、もうそんなに若くないよ。」
見た目が整ってる子ほど年齢を重ねることに敏感である。女の子はいつまでも若く綺麗でいたい。そういう生き物なのである。
KENはそんなことを考えていた。
KEN「じゃあ、そろそろ出るか。」
彼女「うん、出ようか。」
二人は帰る準備を始めた。
既にわかっていた。
そこに勝機が残っていなかったということに。
KEN「もう一件行こうか。」
彼女「もう帰る、最初30分って約束だからね。」
真性グダというのもすぐにわかった。
KEN「わかった、じゃあLINEだけ交換しておこう。」
彼女「LINEだったらいいよ。」
そう言って、彼女はスマホを取り出す。
彼女「じゃあ、私バスこっちだから。」
KEN「気をつけて。」
彼女「ご馳走様でした。」
そう言って彼女は人混みの中に消えていった。
帰りの電車内でLINEにて
KEN『ちゃんと帰れた?』
その画面に「既読」の二文字が現れることは二度となかった。
【考察】
久しぶりに小説記事にしたいと思えたので執筆。
いわゆる界隈ではサンリオ系・MCM系と言われる典型的なホス狂案件。
この層のタイプにはあまり積極的に声掛けをしていなかったこともあり、攻略の糸口を模索するのにとても苦労した。
まず自分のやり方を分析すると「口説き」に重きを置いている。
とにかく聞き役に徹し、理解をし、場を和ませ、男女の空気をつくる。大まかなに言うとこうだ。
しかし、彼女のタイプは界隈では「即系」と言われる。
格好やファッション・メイク・過去の恋愛観などと比較してみても、該当するところがいくつか見受けられる。
このようなタイプにはじっくりと時間を掛けて落とすより、いかにスピード感のある中で仕上げ、弾丸即に持ち込むかということが推奨されている。
そのため今回は自分が刺さらなかったというより、進展方法が誤っていたからだと思う。
事実30分の時間制限を設け、それに関しては応じる姿勢があったので、ここが敗因。
気づけばナンパ歴も2年になるが弾丸即は一度も決めたことがない。
それは弾丸即を決めようと意識したことがないからだ。
まだまだ実体験は少ないが「弾丸即」でないと刺さらない層も一定数はいると思う。
今回、結果としては悔いが残るが得られる学びは多かった。
タイプによって弾丸即・即・準即を使い分ける。これを意識してナンパをできるようにしたい。