5月30日に行われた2010年度武満徹作曲賞にて第二位を頂く事が出来ました。
非常に光栄な事で本当に嬉しいです。
聴きにいらしてくださった皆様、オペラシティの方々(特に澤橋さん)、指揮者の大井さんと東京フィルハーモニー交響楽団、そして家族や友人達、それら全ての方々に感謝の気持ちでいっぱいです。
本当にありがとうございましたm(__)m
演奏会で感じた事を忘れないように書いておこうと思います。
《ホベルト作品》
非常にマッシヴな管弦楽の重ね塗り用法が目立つ、表現主義的な響きと美学をもつ音楽。しかし、力で押し続けるだけではなく、リゲティ的な繊細さを持つクラスターが聴こえる部分もあり全体のバランスが非常に良かったと思います。暗く打ち付けるような和声と打楽器のボウ奏法、そして、エンディング近くのvnソロの悲痛な祈りの叫びが印象に残りました。
あと、何となくリームの香り(ミュライユはシェルシと言っていたけれど)。
《山中作品》
非常にアカデミックで完成度の高い作品。矢代以降続く芸大フランスアカデミズム楽派の正当な末裔といった雰囲気です。
全体的に濁った聴きにくい響きは極力避けられ、柔らかく調和する響きが用いられていて、雅楽を描写したような響きの多用やオスティナートの使用法等も含めて、ある意味で非常に日本的な音楽だったと感じました。今回の演奏ではオケを2つに分割した意味も分かりにくく、可能であれば出来るだけオケを離した空間的な配置で聴いてみたい作品です。
個人的にはとにかく力で押して行く推進力のあるエンディングが聴き物であると感じました。が、ミュライユも指摘した通りサイレンの使用は難しいものですね…。
《アンドレイ作品》
繊細なテクスチュアの扱いが実に見事な作品。細かい部分まで手の行き届いたオーケストレイションが本当に素晴らしい!ミュライユ氏はリゲティの名前を挙げていましたが、個人的にはライヒやサーリアホのような作曲家の臭いを感じました。
管弦楽作品の経験が多いのか、効果的に楽器を鳴らす事のうまさを感じました。和声にもみずみずしい感覚があり、ありきたりの「聴きやすい現代音楽」になっていない所が好きです。
彼の作品は「伝統と革新」と言う問題に対して非常にハイブリッドな考えを持った世代の典型的な美的感覚を持っていて、まさに2010年のヨーロッパの音楽の一端を間近に感じられる良い作品であったように思います。
この世代以降(80年代生まれ)の作曲家は「オーケストラからノイズが出るのは当たり前」と言う感覚を持ち、そのアコースティックな楽器から産み出されるノイズをいかに音楽的に扱うか、と言う部分で音楽性の違いが出てくるものなのですが、彼のノイズの扱いは非常に音楽的であり、絶対的な必然性を持って曲中にうまくミックスされていて好感が持てました。それに対してホベルト作品は「ノイズはノイズ」と言う割りきった使い方をしており、その違いも興味深い所でした。
一曲の中で一つのアイデアを「音楽的にも技術的にも」生かしきる、と言う職人的美意識を持った技術こそ今の時代の若い作曲家に求められる部分であり、その様な部分で海外の二人のファイナリストの技術の高さから学ぶべき所は多かったように思います。
しかし、いくら技術が高くともそこに音楽作品としての魅力がなければ何の意味もない訳で、そのバランスをミュライユ氏がどのようにジャッジするかが個人的に非常に興味のある部分だったのですが、
「トリスタン・ミュライユが審査した」
と言う、審査員の個性と音楽的嗜好が明確に現れた素晴らしいジャッジだったと思います。
自分の作品については、ミュライユ氏のコメントを貼り付けておきます。
■ 難波 研さん《Infinito nero e lontano la luce》
今度はまったく違った方面から音楽に切り込んでいらっしゃると思います。まずより小さいオーケストラを使用なさいました。しかもソロピアノをかなり頻繁に使っていらっしゃいます。ところがそれでもオーケストラの音の豊かさというものは全く失われておりません。私にどう聴こえたかと申し上げますと、力強い、音楽で出来た彫刻のような印象を持ちました。そして音の塊が時には煮えたぎったような部分を感じましたし、そうでない部分においても地下水のようにエネルギーが常に溜まっている、そういうものを感じました。より柔らかいパッセージにもその背後に潜んでいるものを感じました。ハーモニーについて考えますと非常にミステリアスな、神秘的な感じを受けました。それを私自身の中の視覚的な印象と比べてみますと、有名な美しいクロード・モネの一連の『睡蓮』の作品を思い出すものがあります。ちょうど先月私はパリでそのモネの作品を見てきたところなのです。さまざまに彩られたノイズ、これが雲のようにあしらわれている、その中に非常に透き通ったハーモニーが現れるという印象を持ったのです。そして多数のすばらしいオーケストラの音響というものを耳にすることができました。そのうちの一つを例にして挙げますと、クラリネットの柔らかい引き伸ばされた音、これがパーカッションのトレモロに彩りを添えている部分、そして曲の最後の部分、こういった部分が非常に美しかったと思います。
このコメントは実に的確で、しっかりと自分の音楽的な意図がミュライユ氏に伝わっていた事に大きな喜びを感じました。
最後に、アンドレイに言われた忘れられないコメントを記しておきます。
「Your music is not traditional but elegant.」
良い言葉です。