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あたしは昌さんの手をパシッと払った。カードキーがパラパラと床に落ちる。
「あ、ハハ!ほら、あたし、妹。この人、お兄さん」
「みたいな者です」
「仕返し?」
「かもね」
「お邪魔みたいだな」
准はエレベーターから降りずにボタンを押した。ドアが閉まりかける。
「待って!」
すると、昌さんがあたしの腕を取って引き寄せた。
肩が昌さんの胸にぶつかる。
「え?ちょっと…なにす…っ」
准はあたしたちを睨みつけたままドアの向こうに消えた。
「あれ?なんだ。逃げた」
「ちょっと何てことしてくれるのよ!」
あたしはエレベーターのボタンを連打した。
「追っかけるつもり?諦めて、今夜はお兄さんと泊まりませんか?」
「ふざけないで!」
ああ、早く来い来い!エレベーター!准、帰っちゃダメ!
「あなただって、邪魔したのは悪かったけど、好きなら彼女追っかけなさいよ!美人局じゃないなら、彼女だってあなたに追いかけて欲しいと思ってるはずよ」
「あいにく俺がほんとに追っかけたいのは彼女じゃないんでね」
ドキン!
ボタンを連打する手が止まる。
「な、何言ってるの?」
「…誰だと思う?」
昌さんは後ろからあたしの肩に手を置いた。
「俺が本気で追いかけたい相手…」
「し、知らないわ」
「想像つかねー?」
「つきません」
フッと笑った昌さんの息が耳にかかる。
ドキッ…。