あなたと 3
じっとMVを見ながら、歌に聞き入る健。体がリズムを刻んでいる。サビのところで一緒に口ずさんだその声が、ふと一緒に仕事をしていた頃を思い出させた。
聞き終わって、イヤホンを外すと、
「いい歌だね」
と静かに言った。
あれ?なんかしんみりしてる?
帽子のツバをちょっと下げて、軽く人差し指で目頭に触れた。
「いや、なんかこのタイミングで聞くとさー、微妙だよな」
健は笑って俺たちを見た。涙はない。でも目は剛みたいにキラキラ濡れて光ってる。
ああ…こういう感情を飲み込んだ笑顔、するんだよな健って。色々思って飲み込んで…。そういうのを井ノ原が引っ張り出してやったり…。
すると、井ノ原が健の肩をポンポンとやって、
「俺たちはさ、ずっと応援してるよ。お前のこと」
と静かに言って微笑んだ。
「ちょっと待って。やめろよ、そういうの。泣かせようとしてる?」
「あれ?泣いちゃった?」
井ノ原は健の肩を抱きながら、俺たちを見てアハハと笑った。
健は井ノ原にもたれかかって揺らされている。
井ノ原が手を離すと、健はテーブルに腕を乗せて、
「ほんと、いいMVだよ」
と俺たち3人の顔を見回した。それから右手だけ残して体を引いて、
「なんかちょっとさ」
とテーブルに置かれたスマホをツンツンする。
「これ、ファンの人達はさ、このJr.の子たちがさ、カミセンにも見えて来ちゃうっていうさ…そういうのも、あんじゃない?最後6人で寝転がったりしてるしさ」
「ああ、そうそう。多分ね、そういうのあるだろうね」
井ノ原はしたり顔で頷いた。