教科書に載らない源氏物語 1 条件部屋にて | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

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V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

「で?結局、その人妻とは一夜限りだったの?」


ソファに座ってる条が片眉を上げた。


新学期の授業の準備をしている途中で、条を相手に源氏物語の空蝉の話をし出したら、ついつい熱を入れて語ってしまった。


宝も条件部屋にいたけど、条ほど熱心に聞いていた様子はなく…


俺は窓辺に立ってコーヒーを飲んでいる宝の背中を見た。


淡いグレーの薄手のニットを腕まくりして、チノパンのポケットに片手を突っ込んで窓の外を見ている。


「宝はどう思う?」


「ん?」


白いマグカップを持ったまま宝が振り向いた。Vネックの胸元がセクシーだ。


「聞いてた?俺の話」


俺は眉をひそめる。


宝の後ろにある窓から、校門の桜が見えている。


「聞いてたよ?」


宝が上目遣いでマグカップに口をつける。


「その人妻と、一夜限りだったかどうか」


「さぁ…」


宝は気のない様子で首をひねる。


「お前だったらどうする?」


俺はソファの背に腕を乗せ、そこに顎をつけて宝を見る。


「俺だったら?」


「そう。お前が光源氏だったら。その人妻と、もう一度会いたいんだよ。なんとしても。それには文のやり取りをしなきゃいけない。今だったら『LINE教えて』で済むけどさ、一千年前はそうはいかないんだから。誰かに文を運んでもらわなきゃ」


条が、


「郵便屋さんもいないしね」


と言った。


郵便屋さん…。時々、条の言葉遣いって可愛いんだよな。


宝はフッと笑って唇をいじった。


「どうするかなぁ」



「文とか面倒なことしないでさ、また紀伊の守の家に行って夜這いすればいいじゃん」


と条が言った。


「そうそう行けないんだって!だから!身分が違うし、相手は人妻なんだからさ。バレたら大変なんだよ。めちゃくちゃ秘密の恋なわけ!」


俺は条を振り向いて言った。


すると、


「あ…」


と宝が言った。


「なに?」


俺と条は振り向いた。



「あの子はどう?」



「確実に文を運んでくれそうな…ほら…話の最初の方に出てきた、その人妻の弟。なんか、可愛いとか召し使ってあげてもいいとか源氏が言ってたじゃん」



宝はそう言うとコーヒーを一口啜った。


「俺なら、その弟に橋渡ししてもらうかな」

と呟いた。


窓辺にもたれた宝の向こうには満開の桜。


花を背負って余裕の笑みを浮かべる勘のいい色男。


ビジュアルの質の高さといい、弟を使う発想といい…


「お前…光源氏そのまんまだな」


思わず、そう呟いた。