空蝉 五 境界 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

※本日2話目の更新です




女の声だと思ったのは、どうやら先程の可愛らしい少年のものだったらしい。


「ねぇ…姉上様、どちらにいらっしゃるのですか?」



すると、障子の向こうから衣擦れの音がして、


「…ここよ。もう寝ていたわ…」


と眠たげな声が答えた。


なんと…。先程話題にしていた伊予の介の後妻がこの障子の向こうに…?



どうやら急な賓客のせいで、伊予の介の妻は部屋を半分追い出され、この向こうに押し込められてしまったらしい。




「お客様はもうお休みになったの?」


「はい。お休みになられました。ああ…それにしてもお噂通り、美しくてご立派な方でしたよ。まさに、光る君と…」


「シッ…。静かに」


女は声を潜めて弟の言葉を遮った。


「もうおやすみになったのに…源氏の君を起こしてしまいますわ」



もう起きてるよ。と、源氏は心の中で呟いた。


「私も昼間ならこっそり覗いてみますけれど…あっふぅ…」


最後はあくびまじりで、女はどうやらまた布団に潜ってしまったらしい。



光る君と噂される自分にそれほど関心がなさそうな女の様子が、かえって源氏の男心を揺さぶった。


受領の妻に身を落としても、やはり気位は高いままなのであろうか。


源氏は、閨での葵の上の姿を思い出した。人形のように冷たい体で、乱れることのない葵の上を、源氏は何度壊してやりたいと思ったことか…。


しばらくすると、


「僕はあちらの端で眠ります」


といって、少年の足音が遠ざかっていった。




「ねぇ…中将は?どこに行ったの?なんだか人が少なくて、少し怖いわ…」


というさっきの女の声が聞こえた。


中将と呼ばれる女房を探しているらしい。



すると、女主人の寝ている部屋より一段下がった長押から、


「中将は下屋にお湯をもらいに参りましたわ。すぐに戻ってくると言ってましたが…」


という女房の声がした。


「…そう…」


心細そうな女主人の声は、女房の声よりうんと近い。


やがて、静かになった。

みんな寝てしまったのだろうか。


源氏は、用心しながら、試しにそっと障子の掛金を外してみた。


すると、向こう側は掛金をさしていなかったとみえて、障子はすっ…と、音もなく開いた。