*本日2話目の更新です。
から、どうぞ。
私が大学に合格した秋頃から、ママと条くんの関係がいっそう濃密になったことを私は感じ取っていた。
知らん振りしていたけど、ふたりが毎晩のように抱き合っているのも気づいていた。
別にいやらしいとは思わなかったけど、ふたりの愛が深すぎて、私は少し嫉妬していた。
だけど、それは、どちらに対してだっただろうか…。
秋以降、受験勉強から解放されて、剛くんとデートする回数が増えた。
「…桃…」
条くんみたいな顔で、
条くんみたいな声で、
欲望のままに私を抱く剛くんを
少しクールに見ている自分に気付き始めたのは、秋の終わり頃だったと思う。
剛くんとセックスして家に帰ると、私の目を盗んでママにキスする条くんがいた。
ママを見つめる条くんの目。
ママに触れる条くんの手。
かっこよくて賢くてクールな条くんが、ママに対しては、優しさと甘さと色気が全開になる。
そんな条くんを目にすると、モヤモヤして、嫌な気持ちになった。
疎外感を感じてたわけじゃない。
だってママが死の間際に私に言った「桃が一番好きだ」という言葉は、紛れもない事実だし、私はちゃんと、ママに愛されてるって感じてたもん。
ママにはちゃんと愛されていた。私もママが大好きだった。
条くんがママをあんなに愛してくれたことはすごく嬉しい。
だけど、ママを愛する条くんの感情が生々しく感じられるとき、そんな条くんからは目を逸らしたかった。
条くんは、進路のこともママのことも、何を相談しても頼りになったし、ママを支える愛の深さも尊敬できた。
そんな大人の条くんと、彼氏の剛くんを比べるのはどうかと思うけど、条くんと暮らすうちに、あんなに好きだった剛くんへの気持ちが不思議なくらい冷めていった。
こっちで就職を決めた剛くんと、地方の医学部に進学する私。
剛くんは遠距離を乗り越えられるつもりでいるけど、乗り越えた先にいったい何が待っているというのだろう。
私はふたりが一緒にいる未来を想像できなくなって、バレンタインの前に剛くんと別れた。
そして、翌月。卒業式の日にママは逝ってしまった…。
私と、条くんはママのいないマンションにふたりきりで取り残された。