春秋覇王 85 緋剛と黄准の策 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

さて、しばし時間を遡るとしよう。


健白が「桃花が結婚するまでは、自分も結婚しないつもりだ」と語ったその日まで。


それを聞いたとき、黄准は後宮問題解決の糸口が見えたと思った。そこで、健白に桃花が結婚すれば健白も結婚するか、と聞いた。


健白は、桃花が結婚したあかつきには、自分も黄准や緋剛の言に従い、正妃を迎えると約束した。


健白が黄准との約束を違えたことは一度もない。


黄准は、健白の約束を緋剛に告げた。


「なるほど」


「桃花殿がどこかへ嫁に行ってくれればよいのだが…」


「ふうむ」


緋剛は、腕組みして思案した。


そしてそのとき、策士ふたりの頭に同時に同じ考えが閃いた。


その考えとは、桃花を伎の秀王の養女にするという策であった。

秀王には適齢の娘がいない。従って、娘によって他国の王と姻戚関係を持つことができないのである。

だが、もし今、桃花を養女にすれば、覇王健白と姻戚関係を持つことができる。秀王はおそらくその話を受け入れるであろう。


「が…秀王はいいとして…」


「桃花殿の方も、まあ、いいとして…」


「問題は…」


「健白様だな」


「桃花が欲しいわけではない」と言った健白が、そのような策を弄してまで桃花を手に入れることを素直に受け入れるかどうか。



「女の話となると、一筋縄ではいかないのが健白様だからな」



「桃花殿のことも、実際どう思われてるのか今ひとつ…。そもそも、健白様に俺たちのような…その…女が欲しいという感覚があるのかどうか」


「そりゃ、あるだろう。なきゃ、おかしい」


「桃花殿とも、文通だから続いたという気がしないでもない。しかも、愛してるだのなんだの…そういうやり取りではないようで」


「結婚するつもりがなきゃあの人はそんなこと言わないだろう」


「まあ、そうなんだけど…」


「確かに、まるでそっちの方には興味がないような顔をしていらっしゃるが」


「長年お仕えしているが、惚れた腫れたの話は一度も聞いたことがないし、そういう冗談もおっしゃらない」


「ふむ」


健白の桃花への想いがどこまでも清いものだとしたら…やはり、健白は緋剛たちの策を素直に受け入れなさそうである。

しばらく考え込んでいたふたりだが、やがて、緋剛が口を開いた。


「よし」


黄准がチラッと上目遣いで緋剛を見た。緋剛はニヤリと笑って、


「俺に一計がある」


と、自分のこめかみを指で突いた。


「俺と桃花殿ができてしまうのだ」


「え⁇」


「と、いうふうに思わせるのさ」


「健白様を騙すというのか?」


「ひょっとしたら、俺の女になったと知ったら、初めて、ご自分も清い思いだけで桃花殿を愛していたわけではなかったことに気づきなさるかもしれない。

嫉妬や独占欲や…肉欲…。そういうものとは無縁に見える高潔なお方だが、ご自分の中にも、そのような人情があることを自覚なさればよい」


「一般の民と変わらぬ…ただの男だと?」


「そうだよ」



かくして、緋剛は伎に赴き、桃花と秀王の意向をそれとなく確認し、下準備をしてから帰国した。


健白が、緋剛と桃花の結婚に対して異を唱えれば、計画をばらし、桃花を養女にする手筈を整えるつもりだった。


ところが、健白はふたりの結婚をあっさりと認めた。



「しかし、たいそう辛そうになさっていたぞ。横で見ていて忍びなかった」


「ふうむ。…だが、健白様はきっとお前には本音をおっしゃるだろう」


そして緋剛の言う通り、その晩、健白は黄准に桃花への愛を吐露したのである。



「緋剛、健白様の愛は本物だ」


「よし。ならば計画通り、事を進めよう」