春秋覇王 84 婚礼の儀 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?


「大丈夫ですよ」


と、緋剛が言った。



「何が大丈夫なんだ?」


「見た目は健白様の好みだって言ったでしょう?」


と横目で健白を見てから、前を向いた。


「同じ伎の国の女だし」


「お前…」


と、健白は涼しい顔をした緋剛の横顔を睨んだ。

同じというのは、つまり桃花と同じ、という意味である。


「なんですか?」


「いや…」


と健白は目をそらせて俯いた。



健白は、

「黄准…」

と黄准の方へ体を傾け、小声で


「なんでいちいちああいうことを言うの?あいつは。…あ!古傷が…」


と胸に手を当てて立ち止まった。


「どこの傷です?戦で傷など…」


「胸の傷に決まってるだろッ!」


「なにをごちゃごちゃ言ってるんです?」

と緋剛が振り向き、


「胸の傷なら、姫君に舐めて治してもらいなさいよ」


と眉を上げて冷ややかに言った。



「だから、心の傷!」


「わかってますよ」


「舐めて治ったりしないのッ」


「舐めてもらえば治りますよ。今夜。女につけられた傷は、女にしか治せません」


「名言」


と黄准が手を打って感心した。


「感心してる場合じゃねーよ」


「さすが緋剛だなぁ」


と腕を組んで笑っている。


「だとしても、よりによって緋剛に言われたくねーんだよッ」


「はい、はい。ほら、着きましたよ」


いつのまにか婚礼の儀が行われる部屋の前まで来ていた。



重厚な扉の向こうに正妃となる姫君が待っている。



「…やっぱ、やめる」



「は?」



「胸が…いや、腹が痛い。頭も痛くなって来た」



「こらこらこらッ!」


黄准は、頭を押さえて立ち去ろうとする健白の腕を掴んで引き戻した。


「ただでさえ、遅刻してるんですよ⁇本来なら、先に着いて姫君をお迎えする立場なんですから」


「逃がさないと言いましたよ」


と、緋剛も反対側の腕を取る。



「だって、緋剛が思い出させるから!」



「俺がそばにいる限り忘れられないというのなら、健白様のおそばを離れますよ。宰相の職を解いて下さい」



「何もそんなこと言ってないだろっ!勝手に話を飛躍させんなって!」



「じゃあ、参りましょう」



「なにが、じゃあなのッ⁇」


有無を言わせず、緋剛が扉を押し開けた。



煌びやかな部屋の壇上に、王と妃の椅子が用意されており、手前の王の席だけが空いていた。


健白は空席の向こうに座って俯いている正妃の横顔を見た。


妃がゆっくりと面を上げ、こちらを向いた。

健白はゴクリと唾を飲み込んだ。


「た、たしかに…似ている…ような…」


妃は緋剛の言う通り、桃花に似ていた。


「だから、言ったでしょう。さあ…」


と緋剛は健白を促した。



黄准が姫の椅子を引くと、姫が立ち上がり、健白に向かってお辞儀をした。


健白は扉の前に立ち止まったまま、お辞儀を返し、背後にいる緋剛に


「しかし…思ったほど若くなさそうだ…。俺が亡命していたとき、まだ子供だったそうだが…」


と囁いた。



「その姫は病で亡くなられました」


と緋剛が静かに答えた。



「え⁇」


健白は緋剛と姫を見比べ、



「え⁇じゃあ…あの姫は…?」



「伎の秀王のご養女でございます」



「え⁇」



「ほら、早く席にお着き下さい」


緋剛に背中を押されて、健白は王の椅子の前まで来た。



緋剛が健白の椅子を引いた。が、健白は隣の姫を見つめたまま、立ち尽くしている。



健白が座らないので、姫も立ったままである。その姫が顔を上げて、真っ直ぐに健白を見つめた。




健白は確かにその顔に見覚えがあった。




同じような真っ直ぐな目で、かつて馬上の自分を見送ってくれた人。




その細い指で、自分の頬の涙を拭ってくれた人。




姫は健白を見上げ、口を開いた。




「健白様…わたくしの思った通り、いえ、それ以上に…ご立派な王様になられましたこと…」




「あ…あなたは…っ」




「…桃花は、嬉しゅうございます」



正妃は微笑んで、涙を拭った。