春秋覇王 79 解決への糸口 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

「…なんだよその甘ったるい話は。わけわかんねぇ」


黄准から、桃花と健白の話を聞いた緋剛は、呆れ顔で呟いた。


「王にとって結婚ってのはプライベートなことじゃない。公のこったろ。結婚は政治だ。何考えてんだあの人」


「翠の快王には、結婚を政に利用したくないと言ったそうじゃないか」


「それは俺も聞いたが、即否定してやったよ」


「健白様に?面と向かって?」


「ああ。あの人は純粋過ぎて、理想主義に走るきらいがある。考え方も、先を行き過ぎてる。覇王としてはそこが心配だ。高潔な健白様が掲げる理想主義についていける者が、どれだけいるか」


「しかし、健白様の考えは間違ってはいない」



「むろん、そうだ。だが、覇王になったなら、むしろ下に合わせることも必要だろ。結局、世の中の大多数の人間は保守的なんだよ。正義も理想も、民衆の支持がなければ、実現されない。民衆との乖離は王権の破滅を招く」


「手の届かない高潔さと、手の届きそうな親しみ。この相反するふたつの要素が王には必要だと」


「その通り」


「では、どうしたらいい?」


「いっそ、その桃花殿を後宮に入れるか。身分的に、正妃にはなれぬが、好きにご寵愛なさればいい。世継ぎができればそれでいいんだから」


「そうだな」



黄准は、さっそくその旨を健白に伝えに行った。


ところが、健白はその提案を一笑に付した。


「そんなことできるわけないでしょう」



「なぜです?」


「俺は別に桃花殿を欲しているわけではない」


「え⁇」


「桃花殿を後宮に入れるなんて…。お前、女の嫉妬がどれだけ恐ろしいか知ってるか?正妃にもなれぬ何の後ろ盾もない異国の一市民である桃花殿を寵愛して…子供でもできたら…それこそ母子ともに暗殺されたって不思議はない」


「そこは、健白様と我々でお守りすれば…」


「何言ってんだって。お前たちが後宮にしょっちゅう出入りするわけにはいかないでしょ。仕事もあるし」


健白は前を向いて、


「俺は…桃花殿には平凡な幸せを手に入れてもらいたいんだ」


と言って、黄准を見た。そして、



「それは、俺には与えられない」



と微かに眉尻を下げて笑うと、すぐに目を伏せて髪をかきあげた。

綺麗な髪がサラサラと落ちてくる。


「……」


やがて、この話はおしまいだと言わんばかりに黄准に背を向けた。


「では、健白様…!」


黄准は健白の背中に呼びかけた。

健白が、ん?と肩越しに振り向いた。


「では…桃花殿が平凡な幸せとやらを手に入れたなら、そのあかつきには、健白様も、王としてご結婚を考えてくださいますか?」


「……」


「王の結婚は政治だと、緋剛が健白様に申したそうですね。覇王として、健白様の目指す世を作られるには、世のしきたりに時には従わねばなりません。

『人生で大事なことは飲み込むこと』。かつて、健白様の口からその言葉を聞いたと黄准は記憶しております」



臣下でありながら、有無を言わせぬ黄准の眼力であった。


いよいよ年貢の納め時だ。黄准や緋剛にこれ以上やきもきさせてはならない。と、健白は思った。




「俺にとって、いや、俺たちにとって最も大事なことは、争いのない平和で豊かな世を作ることだ。それに比べれば、俺の惚れた腫れたなどは、どうでもいい瑣末なことだ」


ふたりはじっと見つめ合った。



「お前と緋剛がいなければ、覇王になれなかった。誰よりも信頼している。そのお前たちの意見に従わなかったことが…今まであったか?」


健白が目を細めて、ジッと黄准を見た。



「それを聞いて、安心しました」


頑なな健白ではあるが、やはり冷静で聡明なお方だ。

そう再認識すると同時に、自分たちへの厚い信頼に、黄准は胸を熱くした。


これで、後宮問題解決への糸口が見えた。