7時ごろに巡回を始めて、長い廊下を見渡し、誰もいないことを確認して、廊下の電気を消した。
パチン。
「きゃっ!」
え⁇
慌てて電気をつけると廊下の端に生徒がひとり佇んでいる。
まだ体操服を着ている。
「ごめん!」
気がつかずに消灯したことを謝ったら、後ろから条くんがツカツカと歩いて来て、
「こらっ!まだ着替えてないのか?7時過ぎてるぞ!」
って叱った。
「あ。条くん、あの子…昨日ブラジャーを忘れて帰った子だよ」
「なに?」
条くんがピクリと眉を動かす。
「すみません!」
って慌てて頭を下げる彼女の方に条くんが歩いて行って、
「お前、昨日忘れ物しなかった?」
って言うと、
「忘れ物?さぁ…」
って首をかしげる。
俺も彼女のところへ行って、
「昨日君が帰ったすぐ後に教室で忘れ物見つけて…」
「何ですか?」
「え?」
って俺と条くんは顔を見合わせる。
「私、何か忘れてました?」
って目をパチクリさせて首をかしげる。
お前が言えよ、的な条くんの視線。
「えっと…し…下着…ってか…あの…ブ…」
「ブ⁇」
彼女が眉をひそめる。
条くんが腕くんで俯いて笑いをこらえている。
くそッ。
俺は咳払いして、
「あの…持って来ようか?多分君のだと思うんだけど」
って職員室を見る。
「あ…はい。…あの…ひょっとして…え?もしかしてあたし…」
「ちょ、ちょっと待ってて」
職員室に戻って、引き出しからブラジャーを取り出し、また廊下に戻って彼女に渡した。
ハンカチをめくって、彼女が、あ!と小さい声をあげる。
「あたしのです…///」
彼女が赤い顔をして、
「あたし、あの…肌が弱くて。汗とかもダメなんで、いつもブラも着替えるんです」
「そうなんだ」
いや、別にそんなこと説明してくれなくていいけど。でも、ノーブラで帰ったわけじゃないみたいだよ。健くん。
「すみません。あの、ありがとうございます。ハンカチ、洗濯して返します」
彼女は鞄にブラをしまうと、ぺこりとお辞儀をした。
「失礼します」
「大変だな」
って条くんが呟く。
「え?」
「汗すごいかくだろ。団練習。朝練もあるし。着替え大変だな」
さっき彼女を叱った条くんの目が、今は優しい。
「…たくさん持ってきてます。でも、あの体育とかもそうなんで慣れてます。それに…あたし、ダンスが好きだから」
って彼女が顔を輝かせる。
「この学校の体育祭に憧れて、あたし、ヴィクトリー校に入ったんです」
「そう」
可愛いな。やっぱり一年生は。
「気をつけて帰れよ」
「はい、失礼します!」
彼女と別れて職員室に向かいかけてから、あ、と思って彼女を追いかけた。
「ちょっと…君、クラスと名前…っ」
でも薄暗い階段に彼女の姿はもうなくて…
「はえーな…もういないじゃん」
って条くんが俺の背後から階段をのぞいて呟いた。