ふたりのパン屋 最終話 イブのふたり | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

麦さんが彼と田舎に旅立ってからほどなくして、12月になった。


ノルディック柄のセーターを着た朝顔が椅子の上に乗ってうんと背伸びをする。


「届く?」


椅子を支えながら俺は朝顔の手元を見上げる。


「たぶん…」


朝顔が手に持った星のオーナメントがクリスマスツリーの天辺で輝いた。


「オッケー!」


朝顔がピョンと軽やかに椅子から飛び降りた。


今日、俺たちのパン屋の前にクリスマスツリーを出した。


電飾を灯し、おおっ…って並んでツリーを見上げ、ふたりしてパチパチ手を叩いた。


赤や青の光がチカチカ点滅して、俺と朝顔の顔を照らした。


「きれいだな」


「なんかワクワクするな」


って朝顔が肩をすくめて嬉しそうに笑う。


「子供かよっ」


フッと笑って横を向いた。


「あぁ…今年のクリスマスイブもひとりかぁ…」


あ。しまった。

思わず心のつぶやきが声に出てしまった。



朝顔と目が合う。



「うち、来る?」


って朝顔が額に皺を寄せて上目遣いで聞く。


「やだよ。イブに兄貴夫婦の家にお邪魔するなんてさ」


「なんでっ?来いよ。クリスマスパーティーしようぜ。3人でケーキ作って、プレゼント交換!」


「ふざけんなよ。やだよ。だいいち花さんが嫌がるでしょ」


「そんなことないよ!…あ!」


「なに?」


「そういえば、花さん、イブは夜勤なんだ」


「そうなの?」


「子供がいる人と代わってあげたって言ってた」


「ふぅん…」


「だから、来いよ」


「イヤだよ。なんで兄貴とふたりでイブを過ごさなきゃいけないわけ?」


「いいじゃん」


夕顔〜〜って俺の腕を取ってブンブン振る朝顔に向かって、嫌だねと笑いながら手を振りほどいた。



ふと、

麦さんとあの人が田舎の家で仲良くイブを過ごすところを思い浮かべた。


あったかいハーブティーでも飲みながら、ひとつ毛布にくるまって微笑みを交わし合うふたり…。


麦さんがいれてくれたハーブティーの湯気と優しい香りがよみがえる。


麦さん、彼を癒してあげられてる?

そして、麦さん自身もホッとできてる?



ぜひ、そうあって欲しい。


ふたりの幸せを願ってる。



その気持ちは本物だけど…


俺はツリーから朝顔の方へ視線を移す。


「しょうがねーなー。花さんがいないんなら、付き合ってやってもいいけど?」


って片眉を上げる。


「じゃ、決まり!」


朝顔がニコッと笑った。


「とりあえず、寒いから中入ろうぜ」


俺は朝顔の肩を抱いて、店のドアを開けた。


カランカラン…。


クリスマスツリーのライトが俺たちの背中をチカチカ照らし、やがてバタンとドアが閉まった。





fin.




※末っ子ゲスト編、昌ゲスト編は、朝顔夕顔シリーズで、また改めて別のお話に仕立ててお届けします(^^)