ふたりのパン屋 37 夕顔の願望 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

カップを持ったまま、身じろぎもせず、麦さんが俺の腕の中で息を詰めている。


女の人の温もりをこんなにも近くで感じるのは、久しぶりだった。


とたんに蘇る
花さんの胸で泣いた
あの夏の日の夕暮れ


突然立っている足元の床が抜けて奈落の底に突き落とされるような、強烈な孤独感に陥って、


思わず麦さんをぎゅっと強く抱き締めたい衝動にかられた。



麦さんの肩の辺りを掴んでいた手がひとりでに背中の方へ動こうとする。


まるで他人の指先を見ているようだ。


ジワっと汗が噴き出すのを感じた瞬間、指の動きが止まった。


辛うじて理性を保つと、俺は、麦さんの肩を掴み直して、体を離した。


「…大丈夫?」


少し、声が上ずっていたかもしれない。


「あ…はい」


ボーっとしている麦さんの手からカップを受け取ってカウンターに置くと、


「ひとりで帰れる?ちょっと…まだ後片付けがあるし…」


ってカウンターの奥に目をやった。


本来なら送って行くべきところだけど、これ以上ふたりきりでいると自分の欲に負けてしまいそうだから。


「うん。大丈夫。ありがとう…ほんとに。いつも…優しくしてくれて…」


微笑みを交わすと、麦さんが、


「夕顔さんは…彼について行ったほうがいいって…思うのね?」


って聞いた。


「……」


俺の意見は明らかにそうだ。

わかっているのに、確認するのは…俺の麦さんへの気持ちを確かめたいから?


客観的な意見じゃなく、俺の願望としては、ってそういう意味?


俺の願望としては…