お腹空いてる?って聞かれてはじめて空腹を感じた。
それまでは宝先生の車の助手席に座って胸いっぱいだったから、空腹を感じなかった。
「は、はい」
「ごめんね。遅くなって」
あ。優しいトーン。
「いえ。あ。そうだ」
あたしはバッグからポッキーを取り出した。
「食べますか?」
って運転してる先生に一本差し出す。
先生がフッて笑う。
やっと笑ってくれた…。
気まずい空気が流れていたから、先生の笑顔が嬉しかった。
調子づいて、
「はい。アーンしてください」
って冗談で言ったら、
先生が
「アーン」
って笑いながら、前を見たまま少しだけこちらに顔を向けて口を開けてくれた。
嘘でしょ?
…ちょ…ちょっと…嬉しすぎるかもしれない。
先生の口にポッキーを入れる。
先生がモグモグし始めてポッキーが短くなって…私の指が先生の唇に近づいていく。
唇に触れる前に先生がフィッと正面を向いて、あたしは手を離した。
「も、もう一本食べますか?」
「もういいよ。ありがとう」
ってチラッとあたしを見て笑った。
なんか…
優しい。
優しいっ!宝先生!
今ので、寝ている隙にキスしちゃったことを許してもらえたような気がした。
ううん。
やっぱり、もしかしたら気づいてなかったのかもしれない。
うん。きっとそうだ。
だって、ほら、もういつもの宝先生だもん。
あたしの罪悪感が先生をちょっとクールに見せていただけなのかもしれない。
よかった。これで合宿中も普通に過ごせる。嬉しい。
「晴れましたね」
雨に濡れた木々の向こうに夕空が広がりつっあった。
宝先生の彼女さん、ごめんなさい。
万が一、キスしたことがバレても、先生を怒らないでね。
※次回エピローグのつもりだったのですが、書いてると長くなり過ぎたのでタイトルつけて続編にして…後回し!
だって坂本くんの誕生日小説をUPしたいんだもん!