宝がにやけて下を向いて首を振る。
同じこと思ってんな。
肩を抱かれて健とくっついたままその横顔に話しかける。
「じゃさ…愛を届けに行くか。そろそろ」
と言って腕時計を見た。もうすぐ始業のチャイムが鳴る。
「もうすぐ中間テストだけど…お前試験範囲終わってんの?」
「まだに決まってんだろ。お前は?」
「とっくだよ」
「マジで?なんでいつもそんな早いの⁇」
「また授業欲しかったらやるよ」
って肩に置かれた手を振り払ってドアに向かう。
「まさか…」
って健が呟くから、俺はドアの前で振り向いた。
「条〜っ!お前、俺にくれるために授業いつも余らせてくれてんのか〜っ?なんて優しいんだっ!」
って着物の袖を目にあてて泣き真似をする。
「なわけねーだろっ!」
「照れちゃって。愛だな、条!」
ってニヤニヤして犬ころみたいに後ろから俺に飛びつく。
後ろから俺を抱いて胸をバンバン叩き、
「お前の心の花束は俺に届いてるぞ」
って嬉しそうに笑う。
「届けてねーし」
「またまたぁ」
って肩を揉まれて俺は苦笑する。
「どう思う?宝」
って健が言うと、
「仲良しだね」
って宝が俺たちを見て微笑む。
「仲良しだってさ」
「気持ち悪い」
「は?」
「あ。宝ごめん」
見ると、宝が自分のを洗うついでに俺が置きっ放しにしてたカップも洗ってくれていた。
「ん」
とだけ言ってシャツを腕まくりして手際よく片付ける宝のパツパツの背中に話しかける。
「宝…」
「ん?」
「愛してるよ」
って言うと、宝がえ?って驚いて振り向く。
目が合うと、嬉しそうに目尻に皺を寄せて顔を崩して照れ笑いする。
それから片眉を上げ、芝居掛かった声で、
「俺も愛してるよ条くん」
って言って俺たちは微笑み合う。
「なんなの⁇たかがコップ洗ったくらいで愛もクソもねーだろっ!気持ちわりーよお前らっ」
健がギャーギャー言うのを笑ってやり過ごす。と、そのとき、始業のベルが鳴った。
♪キーンコーンカーンコーン
「「やぁべっ!」」
俺と健は我先にと慌てて廊下へ飛び出した。
「健くん、出席簿!」
宝が駆けてきて、健に出席簿を渡す。
「サンキュ!」
「あ!それ二組⁇」
俺は自分の手にある出席簿を見て、
「逆、逆!お前、一組!こっち!」
健と走りながら出席簿を交換する。
「おはようございまーす!」
「おはよ、ってかおまえら遅刻!」
「先生もじゃん!」
「うるさい!」
「急げ!」
「きゃー待ってー!」
宝の「廊下は走らなーいっ」って声を背に、俺たちは笑いながら教室まで風を切って走った。
fin.