「デザートは…」
……。
なんだっけ?
彼女が店を閉めてふたりきりになっちゃって…落ち着かないなぁと思いながら慌ててパクパク食べて…
「あ!ケーキ!ケーキだったよ」
って手振りで表す。
「どんな?」
「どんな?」
どんなって…。
膝に肩肘をついて、顎に手をやる。
……。
彼女も同じものを食べてた。フォークを咥える赤い唇は眼に浮かぶけど…そのフォークの先にあったはずのケーキは…
思い出せない。
「…あ…甘かった…かな…?」
って唇をいじりながら首をかしげる。
聡美がじろっと横目で睨む。
甘くないケーキなんて、ないよな。
「ごめん。…あの…気がきかなくて」
って体を起こして、自分の首の後ろを撫で摩る。
「え?」
「そんなに…食べたかったと思わなくて。だって彼女に食べてって言ってたから。包んで貰えばよかったね」
って言うと、聡美がポカンとしてそれから、
「デザートが食べたかったから聞いてるんじゃないわよっ」
って俺の太ももをパシッと叩いた。
「いてっ!」
「なんなの?いったい。どこまでバカなのよ。それともバカな振り?」
ってまくしたてられて、俺はたじろぐ。
「そんなバカバカ言わなくたって…」
「うるさいっ!」
こえーっ…!
口ごたえできずに黙っていると、聡美が俺の太ももに手を置いたまま、ジロリとにらんだ。
「デザートの味を覚えてないってことはぁ…」
って太ももを撫でる。
「…ドキドキしてたんでしょっ」
ドキッ…!
「え?」
って咄嗟にとぼける。
「元カノとふたりきりになって…ドキドキしちゃったんでしょ?」
って俺の胸に手のひらを当てる。
聡美が、
「あ。今も、『バレちゃったヤバイ』って、ドキドキしてる」
って俺の顔を見る。
「い、今は聡美のそばにいるからだよ」
「はーんっ!…上手いこと言っちゃって」
って眉を上げて俺をバカにしたように見ると、急に俺の胸に顔を近づけてセーターを摘まんだ。
「口紅のあと、ついてるわよ」
心臓が飛び出そうになった。