明日また学校で冷やかされるんだろうなぁ…。
肩をすぼめてポケットに手を突っ込んで早足でうちに向かう。
家の明かりが灯っているのを見ると、いつもはホッとするのだが、今夜は…
ああ…なんか緊張する。
これじゃほんとに浮気したみたいじゃないか。
大丈夫。何もやましいことはしていない。
ガチャッ。
「ただいまぁ…」
家のどこからも、返事はない。
間接照明だけを灯したリビングに足を踏み入れる。
ガラスのローテーブルの上に、氷の溶けた水割りのグラスがひとつ。
革張りのソファーで眠っている青いワンピースの女がひとり。
一方の肘掛けに両腕を置いてその上に頬を載せて瞼を閉じている。
「ただいま…」
待ちくたびれて眠ってしまったらしい聡美を見下ろす。
「聡美…」
水割りを飲んで、思っていたのは俺のことか、それとも、電話をかけてきたあの娘のことか…。
どんな用件だったのだろう。ヘビーな話じゃなければいいが。
「風邪引くよ、聡美」
疲れた顔で寝息を立てている聡美に声をかけるが、起きる気配はない。
「さぁとみ…っ」
腕時計を外して、テーブルに置き、聡美の寝顔を覗き込む。
さて…
起こし方は色々あるけど…。
准のことを思いながら寝てしまったからだろう。
准とキスする夢を見た。
そっと唇を触れ合わせて、割り込んできた准の舌があたしを痺れさせる。
…なんてリアルな…
夢…
じゃない⁇
パチッと目を開けたら、准の艶やかな肌と濃いまつ毛がどアップで飛び込んできた。
「…っ‼︎」
ビックリして思わず准の肩を押して体を離した。
「おはよ」
って准が悪戯に成功した子供みたいに嬉しそうに笑った。