ふざけんなよ!心臓シジミになっちゃったじゃねーかっ!
よりによって…一番会いたくねーヤツ…。
橋本が俺の隣に立って、イヤホンを外し、ポケットにしまおうとしたとき、電車が揺れた。
「キャッ!」
「いでっ!」
足、踏まれた!
「すみません」
わざとか?おい!
「すみません」
「いや、大丈夫」
気まずい。非常に気まずい。
橋本は、まっすぐ車窓を眺めて黙っている。
おい…そっちが見つけて隣に来たんだから、この気まずい空気をどうにかしろよ。
昨日はすみませんでした、だろ!
「足踏んじゃったのは不可抗力だけどさ…他に謝ることあんじゃねーの?」
ムカつくけど、昨日はこっちも感情的になって失敗したから、今度は懐柔策で行くかな…。
「…先生は?」
橋本が顔だけこっちに向けて首をかしげる。
長い黒髪がサラッと肩から流れ落ちて揺れる。
白い肌にピンクの頬。ふっくらとした赤い唇。
真面目で大人しそうに見えるけど、しっかり化粧はしてんだな。
「俺が、なに?」
「ま、いっか」
ってまた前を向く。
「なにが?」
「初めてですね」
「は?」
「この電車で会うの」
ドキッ!
「先生のおうち、この近くですか?」
「実家」
「え?」
「実家がそこなの」
って顎をしゃくる。
「へーぇ…」
なんでいつも彼女にビビってる浮気男の言い訳みたいになんだよっ!
しっかりしろ!俺!
「よく、実家に泊まるんですか?」
…。実家ってとこ強調した…。なんなの?高校生のくせしてこいつ…。
「実家に泊まると何かいいことあるんですか?」
「え?そりゃ、ラクだし…飯とか…」
「優しいんですね。お母さん。仲いいんですか?」
「…ふ、普通…?かな…」
俺は首をかしげる。
「お前、いつもこんな早く学校行ってんの?」
「母が遅刻とか…許さないんで、早めに出ないと煩いから」
「へーぇ…」
次の駅で前の席が空いたので橋本を座らせた。