運命 最終話 一生で最後の恋 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

『魔女さん、あたしに足をください』


高校の文化祭で、ゆかりは人魚姫の役をやった。


俺は、急遽王子の役を演ることになって…。

楽しかった文化祭。

一年後に、まさか本当にゆかりがこの台詞みたいな思いをすることになるとは、そのときは思いもよらず…。




俺がゆかりの足になる。

そう決めたのはいつだっけ…。




歩けなくてもいい。



せめて笑って欲しい。



「健ちゃん」って呼ぶのが照れ臭いなら、「先生」のままでもいい。


俺を呼んで欲しい。



好きだなんて言わなくていい。



せめて…


声を聞かせて欲しい。



人魚姫は足を得て代わりに声を失った。


今のゆかりは…。

そのどちらも奪われるなんて…。



ギュッとゆかりの手を握る。



重ねたふたりの薬指に、お揃いのリングが光っている。




目を閉じると


12ヶ月の間


ずっと


堪えていた涙が


込み上げてきて



ポタリとリングに落ちた。















「…健…ちゃん…」










ゆかりを想いすぎて、幻聴が聞こえる。







「…せん…せい…?」





幻聴…?


ほんとに?



いや…まさか…。




俺は鼻をすすって、恐る恐る目を開けた。




すると


さっきまで瞼の向こうに隠れていた


ゆかりの瞳が



きらきらと光って



不思議そうに




俺を見つめていた。






「どうしたの…?」




まるで

初めて陸に上がった人魚姫のように

眩しそうに俺を見ている。


……。



胸が詰まって何も言えない。



言葉の代わりに涙がこぼれた。




「…先生…」


ゆかりが悲しそうに俺を見つめる。





「…泣かないで…」




ゆかり…。


名前を呼びたい。


でも、今声を出したら、それは言葉じゃなく…嗚咽にしかならないはずだから…。


グッと想いを飲み込んだら、涙がパタパタと零れ落ちてしまった。


俺は握っていた手を離して涙を拭うと、そっとゆかりの頬に触れた。指が震えている。


ゆかりがその手を見て、


「あ…」


って言うと、自分の手を見た。


薬指のリングを見て、


「買ってくれたんだ…」


って微笑んだ。



「ゆかり…っ!」


俺はゆかりをガバッと抱き起こして、力強く抱き締めた。



「先生…?」


俺の耳元で、ゆかりの声が聞こえる。


これは…夢か?






ずっと待ってた。


ここで。


ゆかりのそばで…ずっと…。






「ねぇ…先生。泣かないで…」



泣きながら俺はただゆかりを抱き締めることしかできなくて…。


「ねぇ、聞いて?」


柔らかいゆかりの声…。懐かしいいつもの話し方。



俺はゆかりを抱き締めたままコクコクと頷いた。



「あたしね…ほんのすこしだけど…歩けるようになったのよ?」




ゆかり…。


それから、恐らく足を動かそうとして、ゆかりははじめて自分の体が思うように動かないことに気づいた。



困惑した顔で、俺を見つめる。



「いいんだ…ゆかり…」



ゆかりが眉をひそめる。



「そのままで…いいんだ。…また…きっと…歩けるようになる」


俺はゆかりの肩に手を置いてじっとゆかりの瞳を見つめた。



「…そのままの…ゆかりが好きだよ…」



病室がオレンジ色に染まっている。

白いシーツも
ゆかりのパジャマも
肩に置いた俺の指に光る銀のリングも

俺を見つめるゆかりの黒く濡れた瞳も

みんな、あたたかい夕陽の色に染まっている。



ゆかりが眠っているあいだ
ずっと届けたい言葉があった。



ゆかりが目を覚ましたら言うんだ。

そう決めてた。

順番が逆になってしまったけど、それは仕方がない。




「…愛してる」




12ヶ月間、ずっと胸に温めていた言葉を取り出して…




「一生大事にするから…」



ゆかりの瞳に涙の膜ができる。

それが零れ落ちる前に…届けたい。



俺はもう一度ゆかりをそっと抱き締めた。


ゆかりの耳に銀色のうぶ毛が柔らかく光っている。


その耳元で、そっと、囁く。





「俺と…一緒になってくれ」









一生で最後の恋だから 
僕の全て君に捧げるよ

運命なんて照れくさいけれど 
信じられるよ


一生で最後の恋だから 
ありのままの君を抱きしめたい


僕だけに見せる眼差し 
ずっと 離したくないよ






一生で最後の恋だから 



君を死ぬまで愛しぬきたい




僕の最後の恋だから…







ゆかりの目から真珠のような涙が一粒零れ落ちた。


それを、そっと指で拭ってやる。


「返事は?…」


微笑んで、ゆかりを見つめると、ゆかりが目に涙を浮かべて


「…はい」


と言って笑った。


その瞬間、抱き寄せて、ゆかりの唇にキスをした。


あたたかいオレンジ色の光に包まれて


俺は

ゆっくりと時間をかけて


12ヵ月分の愛を


唇から注ぎ込んだ。











*V6『一生で最後の恋』より歌詞引用。


明日、エピローグで完結です。