あの日と同じように 風が吹いてる
遠い場所で聞こえている
穏やかな波の音に
ずっと…君の声 探しているよ…
「…健ちゃん…っ!」
浜辺に黒いスーツを着た健ちゃんが佇んでいた。
あたしが呼ぶと、健ちゃんが振り向いて、少し笑った。
風になびいた髪が健ちゃんの顔にかかった。
「さっちゃん…」
走ってきたあたしは息を切らして、健ちゃんの前で立ち止まった。
「病院で、看護師さんに聞いたら海だって…」
健ちゃんが髪をかきあげて、あたしを見た。
「子供は?」
「旦那に預けて来た」
「無理しなくていいのに」
「無理じゃないよ。全然」
あの事故から一年が経った。
健ちゃんの彼女のゆかりちゃんは、一命は取り留めたものの、意識が戻らないまま、別の病院に移って、一年が経ってしまった。
「ゆかり、お母さんのお墓参り行ってきたよ」
健ちゃんは、病室に戻るとそう言ってジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めた。
「ほら。さっちゃんがお花持って来てくれた。いい匂い」
そう言って、眠っているゆかりちゃんの顔に花を近づけた。
「そこに活けとこっか」
って、あたしは花と花瓶を持って、病室を出た。
微笑みを浮かべて、ゆかりちゃんを見下ろす健ちゃんの横顔を見ているのが辛かった。
一年前…。
『ゆかりじゃなけりゃ、別の人が乗ってただろうし…さっちゃんがキャンセルしたことに罪悪感を感じる必要なんて、全然無いだろ』
健ちゃんはそう言ってくれたけど…
あたしは何かせずにはいられなくて、この一年、ゆかりちゃんの病室に通っては、あれこれと世話をしていた。