「健…っ…大丈夫だからっ…」
って俺の頭を抱えるようにして条の肩に押し付けた。
「新城って決まったわけじゃねーから。な?見てみないと…わかんねーだろ?」
子供を諭すような条の優しい声。
俺は条の肩に額を押し付けてブンブンと首を横に振った。
しばらくすると、
「じゃあ…俺が見ようか?」
という宝の低い声が聞こえた。
黙って条の肩に顔を埋めていると、条が宝に目配せした気配がした。
「俺が見るよ?…いい?」
宝の声がして、俺は、
「…頼む…」
と言った。
条の肩から顔をずらして、肩越しにそっと宝の様子を見た。
宝が係の人に促されて、柩の方に体を向けた。
胸に手を当てて目を閉じ、ふぅ…とひとつ息を吐く宝の横顔。
白い手袋をした係の人が柩の蓋を開けた瞬間、俺は目を閉じて条の肩にまた顔を埋めた。
しばらく、沈黙が続いた。
心臓が潰れそうだった。
「…条くん…来て…」
宝の鼻声が聞こえた。
条が俺をそっと離した。
条…。
俺はすがるように条を見た。
条が俺の肩をポンと叩き、がっしりと掴んで、それから後ずさって、手を離した。
くるりと俺に背を向けて、柩のところへ行って、宝と並んだ。
柩の中を見た瞬間、条の顔が歪んで口を手で覆った。
そのまま、じっと眉間に皺を寄せて柩の中を覗き込んでいる。
柩に片手を置き、俯いて背中を丸めた。
宝が条の背中に手を置いた。
条が、俺の方を見た。
「健…ごめ…ん…」
俺は眉をひそめる。
「…っかんねー…」
え?
「こんなんじゃ…わかんねーよっ…」
って泣きそうな顔で叫ぶように俺に言った。
わかんないって…?
係の人が、お顔に怪我をされていますので…って静かに言った。
わからないほどの怪我って…。
胸がキリキリと痛んだ。
「じゃあ…手は?」
と言うと、条が首を傾げた。
「右手に…バングルが…俺の…」
柩の中を覗いていた宝が、ゆっくりかぶりを振った。
「…無いよ…」
「無い?」
ドキッとして、期待がワッと膨らんだ。
「バングルが無いなら…」
ゆかりじゃない!
そう言おうとして、宝を見ると、柩の中を見つめる宝の目から涙がこぼれた。
「そうじゃない…」
泣きながら宝が首を振った。
「バングルじゃなくて…右手が…っ…」
宝が言葉を詰まらせ、柩に両手をかけて、その場にしゃがんだ。
条の目も真っ赤だった。
「来いよ。健。…おまえじゃないと…わかんねーよっ!…こんなの…っ…見てやれよ…。見てやってくれよっ…!」
条の声が胸に刺さった。
俺じゃなきゃ…わからない。
俺はゆっくりと柩の方へ足を踏み出した。
もしもゆかりなら…
どんなに傷ついた体だったとしても、俺なら、きっとわかる。
隅々まで…俺の愛したゆかりだから。
どんなに傷ついてたって…。
きっとゆかりが教えてくれるだろう。
健ちゃん…あたしだよ。
見つけてくれてありがとう。
会いたかった…。
きっとそう言ってくれるはずだ。
条の肩をそっと押してどかせると、俺は柩の前に立ち、目を閉じて深く息を吸った。
それから、ゆっくりと、息を吐いて、思い切って、瞼を開けた。