運命 9 俺じゃなきゃ | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

条がしっかりと俺を抱き締めて、


「健…っ…大丈夫だからっ…」


って俺の頭を抱えるようにして条の肩に押し付けた。


「新城って決まったわけじゃねーから。な?見てみないと…わかんねーだろ?」


子供を諭すような条の優しい声。


俺は条の肩に額を押し付けてブンブンと首を横に振った。



しばらくすると、


「じゃあ…俺が見ようか?」


という宝の低い声が聞こえた。



黙って条の肩に顔を埋めていると、条が宝に目配せした気配がした。


「俺が見るよ?…いい?」


宝の声がして、俺は、


「…頼む…」


と言った。


条の肩から顔をずらして、肩越しにそっと宝の様子を見た。


宝が係の人に促されて、柩の方に体を向けた。


胸に手を当てて目を閉じ、ふぅ…とひとつ息を吐く宝の横顔。


白い手袋をした係の人が柩の蓋を開けた瞬間、俺は目を閉じて条の肩にまた顔を埋めた。


しばらく、沈黙が続いた。


心臓が潰れそうだった。



「…条くん…来て…」


宝の鼻声が聞こえた。


条が俺をそっと離した。


条…。


俺はすがるように条を見た。


条が俺の肩をポンと叩き、がっしりと掴んで、それから後ずさって、手を離した。

くるりと俺に背を向けて、柩のところへ行って、宝と並んだ。


柩の中を見た瞬間、条の顔が歪んで口を手で覆った。

そのまま、じっと眉間に皺を寄せて柩の中を覗き込んでいる。


柩に片手を置き、俯いて背中を丸めた。


宝が条の背中に手を置いた。


条が、俺の方を見た。


「健…ごめ…ん…」


俺は眉をひそめる。


「…っかんねー…」


え?


「こんなんじゃ…わかんねーよっ…」


って泣きそうな顔で叫ぶように俺に言った。


わかんないって…?


係の人が、お顔に怪我をされていますので…って静かに言った。


わからないほどの怪我って…。

胸がキリキリと痛んだ。




「じゃあ…手は?」


と言うと、条が首を傾げた。



「右手に…バングルが…俺の…」


柩の中を覗いていた宝が、ゆっくりかぶりを振った。



「…無いよ…」



「無い?」



ドキッとして、期待がワッと膨らんだ。



「バングルが無いなら…」


ゆかりじゃない!


そう言おうとして、宝を見ると、柩の中を見つめる宝の目から涙がこぼれた。



「そうじゃない…」



泣きながら宝が首を振った。




「バングルじゃなくて…右手が…っ…」


宝が言葉を詰まらせ、柩に両手をかけて、その場にしゃがんだ。


条の目も真っ赤だった。



「来いよ。健。…おまえじゃないと…わかんねーよっ!…こんなの…っ…見てやれよ…。見てやってくれよっ…!」



条の声が胸に刺さった。


俺じゃなきゃ…わからない。



俺はゆっくりと柩の方へ足を踏み出した。



もしもゆかりなら…


どんなに傷ついた体だったとしても、俺なら、きっとわかる。


隅々まで…俺の愛したゆかりだから。


どんなに傷ついてたって…。


きっとゆかりが教えてくれるだろう。


健ちゃん…あたしだよ。
見つけてくれてありがとう。
会いたかった…。


きっとそう言ってくれるはずだ。


条の肩をそっと押してどかせると、俺は柩の前に立ち、目を閉じて深く息を吸った。


それから、ゆっくりと、息を吐いて、思い切って、瞼を開けた。