店のドアが開いて、聡美さんが手を振りながら階段を降りてくる。
俺は笑って、ため息をつく。
また来たな…。
「いらっしゃい」
まだ店を開けたばかりで、他に客はいなかった。
聡美さんのコートを預かってハンガーにかける。
「雨、けっこう降ってました?」
雨で湿ったコートを軽く拭きながら聞く。
「そうね。春雨みたいに細かい雨」
「もう三月ですからね」
「早いわね。あっというま」
カウンター越しに向き合う。
「春らしいカクテルお作りしましょうか」
「素敵」
聡美さんがシェーカーを振る俺の手元を頬杖をついて眺める。
いつもながら、色っぽい人だと思う。
宝先生の彼女じゃなかったら…という気がしないでもない。
淡いピンク色のカクテルをグラスに注ぎ、蘭の花をグラスの縁に添える。
「ホテルのウェルカムドリンクみたいね」
って聡美さんがグラスの脚を持って一口飲む。
「うん。美味しい。ふふ…」
なぜか笑うので、俺も微笑む。
「全然、ウェルカムじゃないのにね?」
って悪戯っぽく笑う。
「ウェルカムですよ」
「うそ」
「本当ですよ」
「また来たな、と思ってるでしょ?」
「思ってませんよ」
「…じゃ、話して」
俺は笑顔のまま黙ってつまみを用意する。
「昌さんなら、きっとたくさん女の子をひっかけられたでしょうね」
「……」
「どんなふうに女の子をスカウトしたの?何人の女の子を店に送ったの?」