「はっ⁇」
開いた口が塞がらない。
絶賛猛アタック中って…マスターに⁇
「な…な…な…っ⁇」
言葉にならない俺を見て、聡美が腹を抱えてケラケラと笑いだす。
「可愛い~っ!准!」
「ちょっと…」
つられて俺も笑いながら、
「なに?なんだよ?なに言ってんだよ」
って聡美を抱き寄せる。
「ちょっと…どういう意味?なに?冗談だろ?」
聡美がケラケラ笑いながら、俺の腕の中で身をよじる。
「聡美っ!…こらっ。なぁんだよ。なに笑ってんだよ」
「あははっ」
聡美の嬉しそうな笑顔につられて俺も微笑んでるけど、内心めちゃくちゃ動揺してる。
「なんだよ?もう俺に飽きたの?」
マスターのこと好きになっちゃったの?
「ふふふ…。バカね…准。こんなにいい男なのに、もっと自信持ちなさいよ」
そんなこと言われても…。
聡美が俺の頬に手をやり、甘く見つめる。
「愛してるわ。准。大好き。あなたに夢中よ」
目を閉じて、俺にキスする。
「絶賛猛アタック中っていうのはね…取材のこと」
「え?」
「マスターに取材を申し込んでるのよ」
「え?」
ホッとすると同時に驚く。
「なかなかうんって言ってくれなくて…。日参しては、口説いてるの」
「なんで、マスター?」
「それは言えません」
ってツンと顎を上げる。
「なんで?」
「個人情報。誰しも知られたくない過去の一つや二つはあるものでしょ?」
マスターの知られたくない過去?
それを聞いてどうしようってんだ?
「ねぇ、これはあたしの大事な仕事の話。相手もあることだし、ベラベラ喋るわけいかないのよ。わかるでしょ?」
「それはわかるけど…」
「だったらそれ以上聞かないで」
って俺の唇にそろえた指先を当てる。
「マスターのOKもらえたら、書くから。准に一番に読んでもらう。ね?」
なんだか複雑な気持ちだ。
「人のあまり知られたくない過去を暴いて、どんないいことがあるんだよ?」
上目遣いで、つい、非難めいたことを言ってしまう。
すると、聡美の甘い笑顔がスッと消えて、真面目な顔で、しっかりと俺を見据える。
「准…あたしはいつだって女の味方なの。意義があると思うからやってんじゃない。ただのゴシップ好きじゃないわよ」
「…ごめん」
「個人的な体験を共有したいのよ。そのために書くのよ。過去をほじくり返して、その人を傷めつけるためじゃない」
「でも結果としてそうなるんじゃないの?」
「…そうならないようにしたいと思ってる。っていうか、そうね…それを越えたい」
意志のこもった目で遠くを見つめる聡美の横顔。
腕組みしたまま、パッとこっちを向く。
「知らないと問題意識は起こらないでしょ?…世に問いたいことがあるのよ。あたしには」
と言う聡美の目が、キラッと光った。