ゆかりの母親が玄関のドアを開けて笑顔を見せる。
いいにおいがする。
「カレーだっ!」
思わず言ってしまった。
「ふふふ…。どうぞ食べてってね」
子供じゃねーんだから…///
って自分に突っ込みを入れる。
ゆかりの部屋のドアをノックする。
「なに?」
棘のある声。
おっと…。母親だと思ったのだろう。いきなり、なに?はないだろー。
「俺だけど…」
返事がない。
「入っていい?」
ダメだと言われないので、俺はドアを開ける。
部屋は真っ暗だった。
「なに?電気もつけないで…」
ゆかりは車椅子に座ったまま、俺に背を向けて窓の外を見ていた。
明らかに、様子が変だ。
「電気…つけるよ?」
俺は電気をつける。
「すげーいいにおいしてるからさー、いきなりお母さんに『カレーだ』って言っちゃってさー」
俺は、ゆかりの前に回り込む。
「一緒に食おっか?」
ゆかりが俺を見つめ返す。
久しぶりに、素っぴんのゆかりを見る。
高校生の頃と変わらない、まだ少女のような表情に出会って、俺は少し動揺する。
もう大学生になったから…。楽しそうに学校に通って、友達もできて、俺の手から離れる日もそう遠くないって、思ってたのに。
…そんな顔すんな。
泣き出しそうなゆかりを見て、俺は不安を隠して明るく笑う。
「なーに?どうしたんだよー?腹でも壊したの?」
ゆかりの顔がゆがむ。唇を引き結んで、俯く。
肩を揺らして、声を殺して、涙をこぼす。
「…せん…せ…ぇ…っ…」
胸が締め付けられるように痛む。
俺はゆかりの頭を引き寄せて、俺の胸に押し付ける。
ゆかりが声をあげて泣き出す。
俺は黙って頭を優しく撫でる。