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拳Gの今日の「聞け!」

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学生時代、駅前の焼肉屋でバイトしていた頃の話。

バイト先に入ると、後輩のタバタくんがかなり落ち込んだ様子で仕事をしていた。バイトに来る途中、財布を落としたらしい。しかもバイト先の向かいにあるコンビニで買い物をした後、バイト先の控え室で財布が無いことに気が付き、すぐにコンビニに戻ったが見つからなかったらしい。本人は間違いなくコンビニで買ったコーヒーを飲む時に座ったベンチに置き忘れたと言っている。

財布の中には五千円札が1枚入っていたらしい。しかしタバタくんはお金より、買って間もない財布を無くしたことがショックらしい。確かに彼はずっと欲しい財布があるから金を貯めていると言っていた。

そんな超ローテンションのタバタくんと働いていたら、見たことのある自転車が店の前に止まった。ブドウのおっさんだ。

ブドウのとはおっさんは、地元で有名なホームレスだ。そういった方々はアルミ缶を潰してでっかいごみ袋にいれて売りに行く商売をされているが、このおっさんは、小さいコンビニ袋にアルミ缶を集め、支柱がわりに自転車の荷台部分に突き刺した棒にコンビニ袋をいくつも引っかけて収集している。その棒に引っかけたいくつものコンビニ袋がまるで巨峰のようなので、ブドウのおっさんと呼ばれている。

そんなブドウのおっさんが、一人で客として店に入ってきたのだ。

タバタくん「財布取ったん絶対あいつですよ。」
俺「いや、ええ?」
タバタくん「あんなチャリンコに棒刺さってるやつが焼肉食えるわけないじゃないですか!ちょっと取っ捕まえます!」
俺「アカンアカン。今はお客さんやん。せめて証拠見つけんと。」
タバタくん「わかりました。じゃあ僕に接客させてください。」
俺「わかった。でも絶対手出したらあかんで。」

タバタくんは水を持って接客に行った。彼はとても人懐っこいので、すぐにお客さんと仲良くなれる。ブドウのおっさんの注文を取りに行ったときも、世間話をしながらいろいろ話をしながら情報を聞き出していた。

タバタくん「絶対あいつで間違いないです!」
俺「なんで?」
タバタくん「空き缶集めで焼肉とか景気いいですねって聞いたんです。」
俺「えらいストレートやな。」
タバタくん「そしたら臨時収入はパッと使うことにしてるって言うてました。臨時収入は絶対俺の金です。」
俺「まだわからんやん。」
タバタくん「天から降ってきたって言ってたんで間違いないです。」
俺「とりあえず証拠見つけようよ。」
タバタくん「分かりました。次で証拠押さえます。」


そう言ってブドウのおっさんのところに料理を運んでった。そしてそのままブドウのおっさんに付きっきりで話し込んでいる。てかブドウのおっさん楽しそう。何喋ってんだ?


タバタくん「ダメでした。」
俺「めっちゃ喋ってたな。」
タバタくん「あいつ久しぶりの肉にテンション上がりすぎですわ。ずっと箸の焼き方について語ってましたわ。」
俺「箸の焼き方?」
タバタくん「あいつ狂牛病なんかも生肉を焼いた箸でそのまま食べるからおきたんや。だから食べる前に箸を焼くんやって言ってました。」
俺「まず狂牛病の意味を分かってないな。トング使えよ。」
タバタくん「そもそも狂牛病がはやったん何年前の話やって感じやし。」
俺「情報がある時から止まってんねん。」
タバタくん「そもそも焼肉屋で狂牛病とかあり得ないでしょ。そんなん焼肉屋におりてくる前に大問題になるし。ブドウのおっさんのクセに知ったかすんなって感じですよ。」
俺「それより財布は?」
タバタくん「そんなん忘れるくらい腹立ちましたね。」
俺「君の怒りの天秤わからんわ。」


いよいよブドウのおっさんが会計に来た。

タバタくん「レジ入ってもらえます?僕がレジ入るとすぐ捕まえられないでしょ?だから僕はブドウのおっさんの後ろ付いときます。」


俺がレジに入るとブドウのおっさんが目の前に来てポケットをまさぐる。それをピッタリ後ろに付いたタバタくんがのぞきこむ。そしてブドウのおっさんは裸の五千円札を取り出した。


タバタくん「なんでやねん!」



落ち着けタバタ。

タバタくんの大声に一瞬固まったブドウのおっさんだが、くしゃくしゃの五千円札で支払いを終えると、愛車のブドウ号でそそくさと帰ってしまった。


タバタくん「絶対あいつやん…」
俺「きっと警察届いてるって。」
タバタくん「絶対あいつやん、絶対あいつやん…」
俺「コンビニで預かってるかもしれんやん。」
タバタくん「絶対あいつやん、絶対あいつやん、絶対あいつやん…」
俺「分かった分かった。じゃあ犯人あいつとしよう。そしたら財布だけでも出てくるかもよ。」
タバタくん「!」
俺「現金そのままポケットに入れてたやろ?てことは財布から抜いてるやん?財布抜く理由は財布だけ売ったか、パクった証拠になるからすぐに捨てたかのどっちかや。捨てるつもりなら少しでも早く捨てたいんやからコンビニの近くやわ。」
タバタくん「売ったなら?」
俺「まだ取られてすぐやろ?一番近くの買い取り店か、まだ持っててこれから売りに行くかやな。」
タバタくん「今から追っかけて良いですか?」
俺「店長に聞いて。」
タバタくん「店長!今からブドウのおっさん追っかけたいんで今日あがって良いですか?」
店長「は?ブドウがなんて?」












翌日聞いたんですが、タバタくんはコンビニのごみ袋の中から財布とカード類を発見したそうです。

九分九厘犯人はブドウのおっさんだね。



おわり
社会人4年目の時に、とんでもないポンコツ爺が職場にやって来た話。





当時仕事が激減していた俺の部署は、人件費削減の為、先輩がレンタル移籍で出ていってしまい、さらに別の先輩が退職。俺は唯一の20代になってしまった。

そこで補充人員として、1人のおっさんがレンタル移籍してきた。見たところ40半ばくらい。(後々52歳の妻子持ちと発覚)
正社員やし、大先輩やし、きっと俺の上に立つ幹部候補やろうと思ってたら、なぜか俺の下につき、俺が教育担当にされてしまった。52のおっさんを教育てどういうこっちゃ?彼のことは以下まちゃあきと呼ぶ。

何でもまちゃあきは仕事ができないため、あらゆる部署をたらい回しされ、我が部に漂流したとの噂。とりあえず簡単な仕事を頼んでみた。

俺「この測定器を棚に戻してもらえますか?」
まちゃあき「これ、落としたら私はクビですか?」
俺「さあ…」

俺「この製品、傷とかないか目視検査してもらえますか?」
まちゃあき「これ、傷つけたら私はクビですか?」
俺「さあ…」

俺「まちゃあきさんはソフトウェアとハードウェアどっちが得意ですか?」
まちゃあき「どっちも苦手です。」
俺「えっと…今までどんな仕事されてました?」
まちゃあき「あの、私はクビですか?」









マジでヤバイやつだと思った。




まちゃあきがたらい回しにされる理由が分かったところで、部の飲み会の日。まちゃあきの他に数名の異動があり、まちゃあき以外はレンタルではなく正式に転部された方。歓迎会も兼ねているため、新しく転入された方は無料招待なのだが、レンタルであるまちゃあきは一般参加ということになった。幹事の俺は会費をもらいに行くと、パスとのこと。

俺「何か用事ですか?」
まちゃあき「いえ、私人見知りなんで。」

アホかコイツは。52のおっさんのセリフとは思えん。とは言え酒好きらしいまちゃあきをちょっと説得したら、結局参加するとのこと。

で、飲み会中。やっぱりまちゃあきの評判は悪い。特に係長が食らいつく。緑のヨレヨレのポロシャツを着たまちゃあきを見て俺に話しかけてきた。

係長「おう、見てみろ。何やあのシャツ。あんな色のシャツ着てる奴は悪人に決まっとるぞ!」

ここまでくると言いがかりの域を超えている気もするが…

飲み会の最後。部長のシメの挨拶中、せっかくやからまちゃあきも自己紹介をしろとのこと。

まちゃあき「まちゃあき52歳!フルマラソン4時30分です!」
係長「お前はそんなんやからダメなんじゃ!」

係長ブチギレ。係長は58歳でフルマラソン3時30分なのだ。まちゃあき、残念ながら相手が悪すぎた。

するとまちゃあきは土下座。
まちゃあき「参りました先輩!」
よー!ポン!←部長が無視して一本締め。











飲み会で知名度を上げて、好感度を下げたまちゃあき。相変わらず仕事はできない。そもそも、職種的に使いこなせなければならない測定器がまともに使えない。何の仕事をさせたらええんや。








ある日の定時間際。

俺「まちゃあきさんすいません。ちょっと来週の話しますね。」
S「はい。」
俺「えっと、まちゃあきさんが異動してくる直前から検査入院されてたHさんって方が来週復帰されるんです。きっと仕事たまってると思うんですよ。だから来週はHさんの仕事を手伝って…」

キーンコーンカーンコーン←定時のチャイム

まちゃあき「すいません、話の途中ですけど…」

スタスタスタスタ…バタン←ドア閉める音

















なに帰っとんねんボケェ!打ち合わせ中やぞ!チャイムなったら帰るって小学生か!パブロフの犬め!


つづく




来てよね。
以下本文。




1月2日。俺は車の助手席にいた。運転しているのは弟。後部座席には両親が乗っている。

弟はアホみたいなワゴンRで鍛えたドライブテクで、親父のまだ購入して1年も経っていない新車のパッソを転がしている。
そういえば、初めて親父に新車を見せられたとき、「どうや!日本で一番売れてる、きな粉色のパッソや!」と、どこの誰に吹き込まれたか、訳のわからん自慢をされたのを思い出した。

1月2日に名古屋に行くのは恒例行事。母親の実家が名古屋なのだ。7人兄弟の母親、昔は大勢の親戚が集まっていたが、最近では2~3家族が集まるくらいだ。
車内では皆が去年の話で盛り上がっていた。



母「去年はにぎやかで楽しかったな」
父「今年はどうや?いっぱい人来るんか?」
母「去年ほどじゃないよ」
弟「○○さんとこの3姉妹、みんな旦那と子供連れてきてたもんな」
父「子供らの名前なんていったっけ?おい!聞いてるか?」



親父は俺に聞いていたが、俺は別のことで頭がいっぱいでそれどころではなかった。












1年前の12月31日。俺は実家で笑ってはいけないやつを見ていた。俺は毎年12月30日頃に実家に帰り、31日は笑ってはいけないやつを見て、1月1日は父親の実家、2日は母親の親戚の家、それから地元の友達とあったりして4日ぐらいに大阪に返る。そもそも実家実家とは言うものの、実際に生まれ育った家は俺が大阪で働きだしてから取り壊され、両親は近所の借家に引っ越したため、俺からしたらどこの誰か知らん他人の住んでいた家だ。家の柱には、5月5日の背比べでつけたどこの誰か知らん女の子の身長が刻まれている。いや、どこの誰か知らんは嘘だ。この家で育った誰かではある。ともあれ、いつもと変わらん年末年始だ。

1月1日。親父の実家に行く。婆ちゃんは相変わらず大量の料理を作りすぎているし、小学5年になる従姉の娘さんは相変わらずゴマメとカマボコしか食べないし、母親は相変わらず膝が痛いと断固親父の実家行きを拒否したのでいない。いつもと変わらん正月だ。

1月1日深夜。この日昼から降りだした雪は珍しく数センチ積もり、翌日の名古屋行きが少し不安だったが、それに備えて布団に入っていた。
車のエンジン音がしてきた。俺の寝室はガレージのすぐ隣なのでうるさいほどよく聞こえる。そういえばさっき親父が出ていった。この雪だと歩くのも億劫なもんだから、きっとコンビニでも行って帰って来たんだろう。親父の運転歴はかなり長いが無事故無違反。自分の運転技術にも自信があるようで、実際、いつも家のクソ狭いガレージに意図も簡単にバック駐車している。
しかし、今日は違う。音から察するに何度も切り返し、かなり手こずっている。この家に引っ越してから雪が積もったのは初めてだろうから、やりにくいんだろう。













バコン!













親父「あー!」











おっさん、ぶつけたな。











ほっといて寝よ。












1月2日朝。雪はやんでるみたいだ。どのくらい積った?あんまり積もってると名古屋行きも諦めなあかん。
玄関を開けて外に出た。








え?































おっさん何しとんじゃー!













家族会議

父「今日は雪の影響で名古屋行きは中止にします。」
俺「ミラーやろ!」
父「それもある。」
俺「いや、それやん。」
父「うるさい!」

親父はすぐにキレるからミラクルめんどくさい。以下、ずっとキレてる。

母「それより車どうすんの。どっこも行けへんやん。」
父「すぐ修理する。」
俺「修理屋さんも正月休みやろ。」
父「それは仕方ない。営業したらすぐ修理する。」
母「それより修理代は?」
父「問題はそれや。ミラーの根元から折れたからきっと高い。今の車も10年になるから買い換えた方が得かもな。」
俺「とりあえず修理代の見積り出せば?」
弟「友達がそういう工場で働いてるから聞いてみよか?」

友達に電話する弟。

弟「1万でやってくれるって。」
父「そんなわけないやろ!根元から折れたんやぞ!」
弟「いや、ちゃんと言ったで。」
父「根元から折れたんや!1万で出来るわけない!」
弟「え?自動のやつやっけ?」
父「手動や!」
俺「写真とって送ってみたら?」
弟「分かった。」



弟「やっぱ1万ちょいやって。」
父「だから!根元から折れたんやぞ!」
弟「だから写真見せたって。」
父「写真と現物は違うやろ!」
俺「一緒や!」
父「現物見てる本人が言うんやから間違いない!」
俺「専門家が1万でやってくれるって言ってる方が間違いないやろ!」
父「うるさい!とにかく1万はありえへん!」
俺「じゃあいくらかかると思ってるん?」
父「2万!」
俺「はー?」


アホらしくなってそのあとすぐ大阪に帰った。



そう、それが1年前。俺はその事を思い出していたから親父の質問に答えられなかった。
この一家、あんだけゴタゴタしてた1年前の正月のエピソードをかき消した上に楽しい思い出に上書きしてる。

俺はその恐怖に震えて固まっていたのでした。

おわり