わたしは2022年8月に第一線を引退しました、というかヨーロッパのオペラ界から滑り落ちたと言う方が正しいのでしょうが、、、。
しかしながら、そのあとも週2回のレッスンのペースは2023年度はすくなくとも変えず、
2024年1月にMantovani(Pavarottiの奥様)のオーディションを受け、その次週からは、月4回のペースに変わりました。
2024年からはわたしはヨーロッパのオペラ界の中核にかかわる本番やオーディションがなくなったが、
しかし、地元のテアトロコムナーレの公演や、重要な劇場コーラスの仕事のためには声を保つ最低限のメンテナンスとして、月4回のレッスンをもっているわけです。
が、1個、重要なのは、同僚の多くは、じぶんでじぶんを調整できると信じていることで、それは無理だと思います。
たとえば今月は、わたしはスターバト・マーテルがあっただけであり、
来月はドン・パスクァーレの公演と現代オペラが1公演ずつあるだけなので、
たぶん、いまのわたしは、レッスンに行かなくてもじぶんで調整できるかもしれません。
が、わたしは月100ユーロていどの投資をケチッて声を危険にさらすマネはしない。
もちろん、わたしの、地域の同僚たちは、そうしたメンテナンスがなくても、
何歳になっても声はちゃんと出てます。
が、しかし、
【かれらの経歴は始まったことさえない】
ことには彼らも気づいてない。
音楽院を出た後、エージェントどころかプロモーションとさえ契約できず、いやオペラ研修所さえ入所できなかった。
劇場と、その場かぎりの契約で、しかもそれはセリエBでさえない、そもそもシーズンでまわってさえない劇場。
なぜですか?
声がよく出てるだけではプロの経歴は始まらないからです。
ようするに、整備士に任せず自分でメンテナンスした車でF1にでれるわけがない。
オペラでいえば、あなたが厳密なパッサッジョの問題を一人で克服するのは、あなたがクルマのギアを組み立て直す程の愚行です。
これが理由でわたしは新国立劇場デビューが決まったときに音楽可能物件を出ました。
で、先生の前、ピアニストの前、音楽稽古のなかだけで声を出すようにしたのでした。
でなければ24歳の若者が、当時、世界第13位の劇場でソリストとして砕け散らずに済みましたか?
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ではオペラ歌手は、いかなるスタイルを目指しますか?
一言で言うならば、
カチッとハマった声。
まさにVoce Verdiano、楽譜の縦線にピタッと合った、1音1音にAppoggioのある音(ハマった音、とわたしは生徒に説明する)。
どんな声を目指すとそうなるか?
暗く、金属的な声です。
暗い、とはつまり、完全な行動のリラックス。不自然な明るさ(輝きを伴わない明るさ)は、筋肉の力みからきます。
金属的な声は、密閉からくる、適切な空気圧で生まれる摩擦音です。
管楽器的な金属音は、空気圧の上昇とともに重低音を伴います。これは聴衆に身体的にとっても気持ちのいい音です。
さて、わたしは、1月にアイーダのコーラスの最終日、そのまま車でヴェネツィアメストレの宿に入り、3日間、マエストロと、声と呼吸法をあるべきやり方に戻していました。
3日間かけると声のあるべきポジションに戻ってゆきます。それは大空洞から快適に放たれる、しかし、つよい空気圧力をともなう歌い方です。
帰宅する前にはPadovaに寄りました。
ドン・ジョヴァンニの主役を歌って以来、
8年ぶりのPadovaです。
懐かしいカフェペドロッキへ。
スタンダールも愛したカフェです。

そしてわたしがかつてRigolettoを歌ったZacco Armeni宮殿のそばの駐車場から家に帰りました。

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暗い金属的な声だけが正しいです。
もちろん、この暗さはカラーという意味の暗さではなく大きなスペースからくる奥行きであり、
金属的な輝かしい声というのは当然、明るい声というのを意味してません。
暗さに関係するのは横隔膜下の筋肉とその使い方であり、また声門下にスペースをつくる準備ができるための高度な脱力です。こちらは時間がかかります。複雑な理論を長期間かけて学び、それをうわまわる長期間、劇場で理論を実際の歌唱の呼吸法に落とし込んでいきます。
金属的な輝かしさは、まず何よりも喉頭の使い方を知ること、これが9割です。あと1割としては当たり前のポジションを守ればいい。それは硬口蓋の前部で作られる響きです。金属的な響きを掴むこと自体は難しくないが、じぶんのものにする、というがあなたが響く楽器になるには時間がかかります。また曲の中で音に対して与えるのはコツが要ります。そのコツとは横隔膜に寄る柔軟な息の与え方と、あとほんの少しの、喉頭の輪状喉頭筋を使うこと。
注意すべきは、スペースに起因しない暗さは間違っていることと、喉をつかったりどこかに当てて作られた響きは間違っていることです。それは大ホールでは聞こえないのみならず、楽曲のなかで歌うロスを生みます。
あと、重く歌ってる、何か筋肉の緊張を感じる気がするときは、いかに暗く金属的な声が出てると感じられても、修整が必要です。
あくまで筋肉の緊張は、喉もおなかもゼロ、圧力を感じるのはおなかの空気圧だけです。
あなたの先生の、理論的説明だけでなく、あなたの観察、そして劇場やホールでの実験を経て、ふたたび先生とのディスカッション、、、を繰り返すうち、ひつような筋肉もついてきて、また力も抜けていきます。ゆっくり、しかし、無駄な時間を過ごさず、着実に成長してください。
では次回のコラムをお楽しみに!





