2013,10,23,14:00
「死ぬ瞬間」という著作のあるエリザベス・キューブラー・ロスは、
ターミナルケアの先駆者として評価が高い精神科医です。
死の受容のプロセスと呼ばれている「キューブラー・ロスモデル」を
提唱しています。
次の5段階があります。
「否認」→「怒り」→「取引」→「抑鬱」→「受容」
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以前にも書いたことがありますが、
大学の卒論は「不条理と実存」というタイトルでした。
その中で、「シーシュポスの神話」はメインテーマの一つになっています。
学生時代に勉強したことは、その後の人生において、直接的には
ほとんど役に立つことはなかったけれど、
30年前に精読した本を読み返してみたところ、
うまく言葉にはできませんが、とても感慨深いものがあります。
30年かかって遂に読み解くことができた部分もあります。
以下は、アルベール・カミュ「シーシュポスの神話」からの引用(抜粋)です。
長くて読みにくいかもしれません。自分用のメモ書きです。
(引用 はじまり)
神々がシーシュポスに課した刑罰は、休みなく岩をころがして、
ある山の頂まで運び上げるというものであったが、ひとたび山頂にまで達すると、
岩はそれ自体の重さでいつもころがり落ちてしまうのであった。
無益で希望のない労働ほど怖ろしい懲罰はないと神々が考えたのは、
たしかにいくらかはもっともなことであった。
このシーシュポスを主人公とする神話についていえば、
緊張した身体があらんかぎりの努力を傾けて、巨大な岩を持ち上げ、ころがし、
何百回目もの同じ斜面にそれを押し上げようとしている姿が描かれているだけだ。
引きつったその顔、頬を岩におしあて、
粘土に覆われた巨塊を片方の肩でがっしりと受けとめ、
片足を楔のように送ってその巨塊をささえ、両の腕を伸ばして
再び押しはじめる、泥まみれになった両の手のまったく人間的な確実さ、
そういう姿が描かれている。
天のない空間と深さのない時間とによって測られるこの長い努力の果てに、
ついに目的は達せられる。 するとシーシュポスは、岩がたちまちのうちに、
はるか下のほうの世界へところがり落ちてゆくのをじっと見つめる。
その下の方の世界から、再び岩を頂上まで押し上げてこなければならぬのだ。
かれは再び平原へと降りていく。
幸福と不条理とは同じ一つの大地から生まれたふたりの息子である。
このふたりは引きはなすことができぬ。
かれの運命はかれに属しているのだ。かれの岩はかれの持ち物なのだ。
同様に、不条理な人間は、みずからの責苦を凝視するとき、
いっさいの偶像を沈黙させる。突然沈黙に返った宇宙のなかで、
ささやかな数知れぬ感嘆の声が、大地から沸きあがる。
数知れぬ無意識のひそやかな呼びかけ、ありとあらゆる相貌からの招き声、
これは勝利にかならずつきまとうその裏の部分、勝利の代償だ。
影を生まぬ太陽はないし、夜を知らねばならぬ。
不条理な人間は「よろしい」と言う、
かれの努力はもはや終わることがないだろう。
ぼくはシーシュポスを山の麓にのこそう!
ひとはいつも、繰返し繰返し、自分の重荷を見いだす。
しかしシーシュポスは、神々を否定し、
岩を持ち上げるより高次の忠実さをひとに教える。
かれもまた、すべてよし、と判断しているのだ。
このとき以降もはや支配者をもたぬこの宇宙は、
かれには不毛だともくだらなぬとも思えない。
この石の上の結晶のひとつひとつが、夜にみたされたこの山の鉱物質の輝きの
ひとつひとつが、それだけで、ひとつの世界をかたちづくる。
頂上を目がける闘争ただそれだけで、人間の心をみたすのに充分たりうるのだ。
いまや、シーシュポスは幸福なのだと思わねばならぬ。
(引用 終わり)
やっとの思いで山の頂上に運び上げた岩が、
その瞬間に転げ落ちていくのを見るとき、
シーシュポスは何を思うのだろう。
転げ落ちてしまった岩に向かって、
再び山を降りているとき、
シーシュポスは何を思うのだろう。
山を降りて岩のそばに立ち、もう一度頂上に向かって
さあ、岩を運び上げようと決心するとき、
シーシュポスは何を思うのだろう。
「すべて、よし。」
全てを受容したシーシュポスは、彼を罰した神を超える。
彼は、自分の廻りの山や岩や小石や土などの全ての存在と一体感を感じ、
感謝と幸福で満たされている。
不条理が幸福へと変容し止揚する瞬間である。
カミュの力強さが、私は大好きです。
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明日から入院するところは、前回までの大病院とは異なり、
こじんまりとした病院なので、100円ネットサービスなどはありません。
(大病院でも、今どき100円ネットを利用しているのは自分くらいでしたが。)
次の退院までブログの更新はありません。
では、また。
お元気で!