第4話 誰も知らない村 | よーへーさん。

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例えば、ここが知らない村だとして。

知人も同僚も、当然友人や家族もいない、誰も知らない村

田舎の商店街をぶらりと歩きながら、よーへーさんはとりとめもなく考えを巡らせていた。

イヤフォンからは、聴きなれたR&Bがとめどなく脳内に流れ込み続けている。

 


もしもそんな村が世界中にあるとして。

いくらでも人生をつくり直せるとしたら

あ、時間は巻き戻せないルールね。それが唯一のルール。

さて、どうする?



コーヒーチェーン店の自動ドアを潜り抜けながら、店内を見渡すよーへーさん。

例えば、お一人様外国人とレジの若い女の子がいたとして、どっちを村人第一号にする?

 

「いらっしゃいませー」

レジから、ぎこちない笑顔で坂口(研修中)が話しかけてきた。

何をしてもいい。おれのことなんて、誰も知らない村だから。

メニューを眺めなるふりをしながら、よーへーさんは人生への態度を決めかねていた。

「お一人様ですか?」

「店内でお召し上がりですか?」

村人に相応しい台詞だ、とよーへーさんは思った。

坂口(研修中)は、マニュアルというプログラムに守られた極めて安全な存在だ。常軌を逸する言動を起こすリスクは低いはずだ。

おかしなことを口走ってもいい。嘘をついたっていい。

だって、誰も知らない村だから。

 

トマトジュース」

なんだか無念な気分を押し殺しながら、よーへーさんは店内を見渡せる隅の席に我が身を運んだ。


 

トマトジュースをふくみながら、

「誰も知らない村は、この世界そのものだな。」と、よーへーさんは思った。

スペイン代表のサッカーユニフォームを着た外国人が、大きな口に次々とポテトを投げ込んでいる。スペイン人だろう。

坂口(研修中)は、バレー部っぽいな。なんとなく。彼女の世界にサッカーというスポーツは存在しないだろう。

次に来た時もう一度トマトジュースを注文したら、坂口にとって僕はトマトジュース好きの客になるのだろう。違うけど。

 


「お待たせいたしましたー」

坂口が、コーヒーのお代わりを注文した外国人と談笑している。

「えー!スペインじゃないんですか?」

「ヤー!アイム フロム メヒコー」

 

 

「世界は実に、その人の主観でできている。」と、よーへーさんは思った。

誰も知らない村で、今ここからどう生きていこう。

 


この国の平均寿命を半分生き抜いて、掴んだ人生のコツが二つある。

 一 決めて、実行すること。

 一 選んだことの責任をとること。

人生のコツは、極めてシンプルだ。

 


トマトジュースの喉ごしが、やけに重たい日曜日。

R&Bは鳴りやまない。