自民党参議院議員・西島英利氏に聞く-厚労省の「大綱案」の骨格はもはや変わらず | kempou38のブログ

自民党参議院議員・西島英利氏に聞く-厚労省の「大綱案」の骨格はもはや変わらず

自民党参議院議員・西島英利氏に聞く
厚労省の「大綱案」の骨格はもはや変わらず
「民主党案は距離がありすぎる」と問題視、今後の日程は未定
聞き手・橋本佳子(m3.com編集長)
 厚生労働省は6月13日、「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」を公表、その直後に自民党の「医療紛争処理のあり方検討会」への説明を行った。その一方、民主党も相前後して、対案をまとめた。“医療事故調”の論議は、政治の場に舞台を移した様相だ。自民党の検討会の副座長を務める参議院議員の西島英利氏に、両案への評価や今後のスケジュールなどを聞いた。(2008年6月13日にインタビュー)


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自民党の「医療紛争処理のあり方検討会」副座長を務める、参議院議員の西島英利氏。
 ――今日、厚生労働省から「大綱案」について説明を受けたとお聞きしました。

 様々な意見が4月3日の厚労省の第三次試案(『21条改正で前進だが「警察への通知」残る』に寄せられたので、それらを整理して大綱案を作ったという説明でした。

 意見の中で特に多かったのが、異状死の届け出を定めた医師法21条との関連です。第三次試案では、医療安全調査委員会(医療事故死などの死因究明などを行う組織)に届け出れば、21条に基づく警察への届け出は不要としています。しかし、「調査委員会に届け出ても、警察が別途(調査委員会を通さずに)捜査に着手する場合があるのではないか」といった不安や、来年の検察審査会法改正に伴い、一度不起訴になっても、また起訴できるルートができることへの懸念などが出されています(『「医師を必ず起訴」という新ルートが誕生』を参照)。

 ――「調査委員会に届け出ても、警察が捜査を行う場合がある」という点について、警察庁などはどう説明されたのでしょうか。

 警察庁は、「専門的な調査委員会の意見を尊重してやることは、やぶさかではない」と言っており、警察への届け出があっても、「調査委員会に相談してください、と助言する」としています。今日の検討会では、議員からこの点についての質問は出ませんでしたが、前回の会では警察庁はそう説明しており、「第三次試案」にも「別紙」という形でその旨が書かれています。

 しかし、本当に警察庁がそのように了承しているのか、疑問視する声があったため、今回13日に公表した説明資料には、この点についての裏付けとして、「本試案の内容は、厚生労働省、法務省および警察庁の間で合意したものである」と明記しています。

 医療者の中には、刑事免責を求める声もありますが、それは難しい。刑事訴訟法の壁がものすごく厚いわけです。しかし、「大綱案」は極めて「免責的」です。調査委員会が警察に通知する医療事故死は、限定されたからです。これがギリギリのところでしょう。

 ――第三次試案に対しては、医師会という組織自体では賛成であっても、個人レベルで反対している人が多数います。

 試案や法案を読みこなすことは難しいものです。そこに書かれた個々の言葉がどんな意味合いで使われているのか、それを読み解き、理解することは簡単ではありません。こうしたことが反対意見が出ている理由でしょう。私は地方の医師会で講演する機会が多いのですが、きちんと説明すれば、ほとんど理解してもらえます。
 
  ――この「大綱案」は、どんな位置付けになるのでしょうか。  

 この「大綱案」は、このまま法律になるように作成されています。ただ、もう一度、公開してまた意見を募集します。そこで出た意見を踏まえ、微調整して案をまとめることになるでしょう。自民党の検討会は、この段階でまた説明を受けることになっています。  

 ――それは「第四次試案」ということですか。  

 「第四次試案」の作成はないでしょう。ギリギリのところで「大綱案」を作っているのですから、調整が必要な部分はあるでしょうが、もはや骨格は変わりません。  

 ――そこで言う「骨格」とは何ですか。例えば、民主党は、死因究明と再発防止を別組織で実施する案を出しています(「民主党が厚労省『大綱案』の対案まとめる」を参照)。  

 死因究明あっての再発防止であり、両者を分けて実施する必然性はありません。  

 ――民主党案では、「医師法21条を削除する」としていますが、この点についてはどうお考えですか。  

 今回の議論の発端は医師法21条であり、この問題が厳然としてあるわけです。2004年の最高裁判決では、たとえ業務上過失致死罪に問われる可能性があるとしても、異状死の届け出義務があるとされたわけです。  

 また、医師法21条はもともと、殺人や虐待などの事例に関する、警察への協力法としてできたわけですですから、この法律を廃止することはできません。   

 では、どうしたらいいのか。「こういう組織を作りますから、こうした事例については、21条の届け出の対象から除く」という形にしかできません。「大綱案」では、調査委員会に届け出を行ったものは、医師法21条の届け出対象から除外するとしています。  

 ――では、「大綱案」で調整が必要な部分はどこだとお考えですか。もう詳しく明記した方がいい部分などはあるのでしょうか。  

 確かに様々な意見があるでしょうが、その多くは法律本体ではなく、政省令や実施要綱などに記載すれば、整理ができると思っています。法律はある意味で、アバウトに作る必要があります。  

 例えば、「大綱案」では、警察への通知対象として、「標準的な医療から著しく逸脱した医療に起因する死亡」としています。これは法律ではなく、実施要綱などに書くべきものです。また、「大綱案」には、「○○等」といった記載がありますが、これは医師の裁量に任せている部分です。

 ――立法化する際は、「閣法(内閣提出法案)」になると思いますが、自民党としてはこれを支持するわけですか。  

 そうです。そもそも「大綱案」は、厚労省が作ったものではありません。厚労省が作ったのは昨年10月の「第二次試案」です。これには問題があり、自民党の「医療紛争処理のあり方検討会」が11月末に出した考え方を踏まえて作成されたのが「第三次試案」、それを基にしたのが「大綱案」だからです。

 ――では、「大綱案」は自民党案と考えていいと。

 はい、その通りです。  

 ――今後のスケジュールをお教えください。  

 それはまだ分かりません。民主党がどんな動きをするかにもよります。  

 ――仮に今秋に臨時国会が開催された場合、提出されることになるのでしょうか。  

 それは難しい問題です。まず、今通常国会で積み残した法案を議論しなければなりませんが、その多くは民主党と意見が異なる「対決法案」です。  

 この医療安全調査委員会設置法案についても、民主党が対案を出しています。民主党が調整作業に乗ってくれればいいのですが、あまりにも距離がありすぎます。民主党案は「医師法21条の削除」からスタートしています。しかも「死亡診断書」「死体検案書」を交付しない場合に警察に届け出るとしています。しかし、今まさに問題になっている警察との関係と、「死亡診断書」などの作成は全く関係ない話です。  

 ――ではいつ国会で法案を議論すべきだと。  

 法案が通っても、調査委員会の準備などで実施までに3年くらいはかかるとされています。ですから、いつでも法案を出せる準備をしておきましょう、ということです。  

 ――最後に改めてお聞きします。この「大綱案」を基にすれば、現状よりも良い制度ができるとお考えですか。  

 いい制度にしないと意味がありません。今回の調査委員会設置法案の一番の目的は、医療事故で医療者が逮捕されることをいかに防ぐか、つまり医師法21条をどう死文化するかにありますが、これが可能になります。