祖母が声を押し殺してないている。
時折、細い肩がちいさくふるえる。




真っ白なレース糸で編んでくれたお花の形のコースター。
おけいこかばんにいれてくれた水色の「さかな」の刺繍。


冬にはまっかになるしもやけでふくらんだまるくてやわらかい手。
いつもえがおだった 頬に刻まれるかたえくぼ。
サラサラと揺れるまっすぐな黒髪。


一月二十六日、
正月気分もすっかり抜け
あいかわらずの寒さときぜわしさはあるものの
やがて必ず訪れる春の気配をそろそろと探しはじめる季節。





たったの二十三年。

たった二十三歳で逝ってしまった。






不思議なことに
その前後の記憶が
すっぽりとないのだ。




結婚式の白無垢姿はくっきりと鮮明にあるのに

なぜか
葬儀の記憶はない。




義理の妹をまるでほんとうの妹のように大切にしていた末っ子で育った「母」や
父親代わりだった「父」がどこでどうしていたのかも
まるで記憶にない。







ふと見上げると
真っ暗闇の中からふいにあらわれ
めがけるように落ちてくるボタン雪が
頬に落ちてはとける。
口の端に溜まった雪の最期を舌で舐めたらすこしだけしょっぱかった。





そして

それ以来
祖母があんな風にないている姿も
見ていない。