無言でサラダ皿に乗せられた
トマトのことを考えている
わたしはトマトが大好きである
そうだ
君が嫌いだったことを思い出す
食べ物の好き嫌いも
なかなか否めない
それが わたしを
しあわせにするんだもの
郵便局へむかう
持ち物は左手にA4サイズの封筒
これこそ!
まさに持ち物ではないかと思い
帰り道には手ぶらになる
物寂しさを尖った口で知る
家の近くの和菓子屋さん
いちご大福の文字に
「こっちですよ」
いや
「ねえ、たかさごさん」
なんて呼ばれたので
自動ドアを
誰にも気付かれないようにくぐった
「いちご大福ください」
と言うと
「いくつにする?」
と聞かれて 慌てて
「ひっ… ふたつください」
言い換えた
その言葉と甘さが
頬から転げ落ちる
次はわらび餅
わたしの季節は
いちご大福と
わらび餅でできているらしい
エレベーターで
大きなくしゃみをひとつ
「まあ、大きなくしゃみ」
と老夫婦のおばあちゃん
いつもなんとも言えない
エレベーターの空気が
言葉ひとつで変わる
それ抱き締めて
目的地へ向かう
一階で降りる姿は
やけに誇らしかった
今のわたしは
とりのなきごえや
サラダ皿に乗せられた
トマトのことを考えているだけでいい
通りすがりの彼のメロディを奪ったり
嘘がない雨を乗り越したり
コップの底の見え方や
静かな夜に
寝息の音と
扇風機の羽の音に耳澄ましたり
あとそれ以外のことを
考えているだけでいい
そうだ
君の嫌いな漬物も
わたしをしあわせにする
鏡の中にいるわたしが
あなたをそうさせる
青い 青い 夏

