あのこがくれた
イヤリングをつける
何足目だろう
履き古した
スタンスミス
靴紐をかえて
少し嬉しそう
「忘れ物はない?」
わたしの部屋までの
急な階段を駆け上がって
一番近くにあった
坂口安吾の「白痴」を
手に取る
あのこが好きだった
ボールを嗅いで
「いってきます」
五つの夢は
いっそ忘れてしまおう
家を出ては三分
大事な忘れ物
とりにかえる
電柱から降ってくる
カラスの糞を
何食わぬ顔で避ける
あなたのことを
考えていた
顔を上げると
老人ホームの
バスの運転手さんは
とても嬉しそうに
笑っている
わたしだって
しかめっ面していたい
わけじゃないのよ
書き留めていたメモは
もう捨てた
朝から食べた
お肉のせいで
夜まで続いた
胸焼けも胃もたれも
忘れた
緊張で震える身体は
もう何処にもいない
名前はもう決めた
新しいギターの音が
ただ
包み込んでくれる
拍手の音
止まらない涙は
忘れない
私達これから
いくつもの暗闇を越えて
何度でも
何度でも
立ち上がる
見守っていてね
「いってきます」


