■全開になったオタク気質
集まった女子のスペックはかなり良いものだった。
僕の認識だとオタクっぽい女子なんてブ○でキ○イ子ばかりだったが、一気に覆った。
最近のオタクはレベルが高い。
今思えば、僕たちの時代も可愛くてオタク気質な女子はいた。
だが、大半はそれを隠して過ごしていたのだろう。
しかし、今はオタクが当たり前のようになり、そんな可愛い女子のオタク気質な部分が全開になったのだ。
■全力投球で歌う
ちょっとした自己紹介を終えてカラオケへ。
カラオケに初のメンツで行った場合、必ず起こるのが、誰が一番最初に歌うか問題だ。
御多分に洩れず、ここでもその問題は発生したが、半ば強制的にオタクの男子が歌う事になった。
選曲は福山雅治の「家族になろうよ」
もちろん馬鹿ウケした。
この場であんなスローな、しかも女子たちには、あまり馴染みのないであろう福山雅治チョイス。
一気に人気者になった。
ここでオタク男子たちに火がついた。
自分たちも人気を得ようとマイクの奪い合いのような状況になった。
見ていて少し悲しかったが、中でも特に悲しかったのが自称バンドマンのギター演奏付きの歌だった。
そもそもオフ会にギターを持ち込むという事自体、僕にとっては正気の沙汰ではなかったが、本人はウケると思って持ってきたのだから、もちろん弾く。張り切って弾く。
しかし、この演奏付きの歌は誰も聞いていないという悲惨な状況になるのだった。
「ギターってモテるんじゃないの?」そんな彼の心の声をよそに、他のメンバーたちは会話と歌を楽しんだ。
そして女子が歌う番になった。
僕が驚いたのは彼女たちの本気度合いだった。
楽しく歌を歌う僕たち世代とは違い、彼女たちは上手く歌おうとする世代なのだと思った。
歌っている時に合いの手などは入れては行けないくらいの本気モードで歌う。
さすがにオタクは違うなと、引きたい気持ちを抑えながら、しっかりその様子を頭にインプットした。
時代についていくためには、こういう新しい発見を敬遠してはいけない。
受け入れなくてはいけないのだ。
■僕の知らない世界
hip-hopやレゲェ、R&BにEDMといった様々なジャンルを聞いてきた僕だったが、ボーカロイド、俗にいう”ボカロ”というのは未知の世界だった。
初音ミクという名前を知っている程度のだった。
しかしカラオケではこれが乱発される。
そして彼女たちが真剣に歌を歌う理由の1つはここにあった。
ニコ動などでよくある、いわゆる"歌ってみた"というやつだ。
ボカロが歌う原曲はアンドロイドなので機械的な歌い方で歌われる。
これを人間が歌う事によって人間らしい味が出るのだ。
曲に命を吹き込むとも表現できる。
しかも人によって違う味が出る。
彼女たちの歌の楽しみ方は”自分がどんな味を出せるか”なのである。
そう、僕たち世代の楽しみ方は完成された曲を聞く事だ。
例えるならカスタム不可のガラケーだ。
しかし、彼女たちの楽しみ方は未完成な曲をオンリーワンに完成させる事だ。
入れるアプリによって違った機械になるスマホなのだ。
「最近のガキどもは良い曲ってのをわかっていない。何がボカロだ」
と僕は少し彼女たち世代を馬鹿にしてきた節があった。
しかし、馬鹿なのは僕の方だったのだ。もはや楽しみ方のルールが違ったのだ。
結局、僕たち世代はテレビ世代、決まった時間に決まった番組を見る受動的な楽しみ方をする世代で、創造的な楽しみ方をする彼女たちの方がよっぽど立派だったのだ。
もちろん、今は駆け出しで稚拙な曲をカスタマイズしているだけだが、将来的には化けるだろう。
この溝を埋めるのは苦労しそうだ。