【幻想物語 第7章 第12話】 | 毎日きびきび

毎日きびきび

遂に大学生。
気を引き締めていきたいですね。

これまで出会えた全ての人に感謝を。
これから出会っていくであろう全ての人に感謝を。

いざ行かん、最終決戦へ――


ウィッズ、ディーガ、マリア、タナトス。



4大神官を倒し、遂に訪れた、最後の戦い。



VSアポロン・・・!!


決戦の地、月に降り立つライナは、自らの創造主、アポロンと相見える。


人間VS神の、熾烈な戦い。


今ここに、解禁―――




幻想物語


第7章 第12




-アポロン-



-イディンVSタナトスの決着から、僅かに5分前-




トン。



ライナの足は、月の地表に触れた。




即座に、辺りをキョロキョロと見渡す。



・・・何もない。

あるのは、石と、岩と、砂原。


あとは、闇。

空は、闇で覆われている。

延々と続き、終わりなき、闇。


全てを包み込み、呑み込まんとする、闇が、無限に広がっている。



後方には、彼らが守らねばならぬ、地球がある。


その更に後方に、砂粒のような小さな点が、無数に点在している。


星、そう呼ぶべきなのだろうか?

そう呼ぶには、それらの光はあまりに弱く、か細く、今にも消えてしまいそうだ。



「っと、んなこと考えてる場合じゃねぇよな」


ライナの独り言が、空しく響く。



僅かだが感傷に浸っていたようだ。


即座に、頭の中を切り替える。


再度、周囲を見渡し、何かモノがないか、目を凝らす。




―― そのときだった。





ズゥン―――!!!!



濃く、重く、異質な魔力(ディーガ)が、ライナを襲った。



そのあまりに突然の出来事に、ライナは一瞬、呼吸を忘れた。


呼吸をすることを、ではない。

呼吸の仕方を、だ。


時間にして5秒に満たない間だったが、ライナは、嬰児と同じになった。


ただの、魔力(ディーガ)だけで。



片膝をつき、肩を激しく上下させる。



「なっ・・・なんだよ・・・今の・・・」


冷や汗がだらだらと流れ落ち、月の乾いた地に吸い込まれていく。


ライナを怯ませた根源は、ライナの目の前に、あった。




一つの影が、こちらに向かって歩いてくる。


緋色の、肩まである髪をなびかせ、ぴしっとした服を着て、“それ”はこちらに向かってくる。


整った顔からは、何も感じ取れない。
無表情。


悲しみも、怒りも、喜びも、何も伝わってこない。


つまり、無。



「あ、あいつが・・・・・・!!」


手が震え、歯の根が合わない。

全身が、その存在を怖れていた。





「お前が・・・ライナ・ウェルドか」



口を開いたそいつは、先程の無と一転して、憐れみを顔に浮かべた。





「アポ・・・ロンッ!!!!!


ギリリと歯軋りをし、全身の筋肉を高ぶらせる。


そうだ。

今ライナの目の前にいるのが、太陽神、アポロンだ。


全ての始まりにして、万物の頂点。




「存外・・・弱そうだな・・・。お前ら如きに、ウィッズは、ディーガは、マリアは・・・



「おいおい。ディーガは確かにバレットが倒したが、ウィッズは知らねぇぞ」

ニッと苦笑いを浮かべ、今できる精一杯の皮肉を述べた。


「プライドの話だ。勘違いをするな、ゴミ」



「安心しろよ、アポロン。そのゴミに、テメーは負けるんだ」


いきなりゴミ呼ばわりされたことに、さすがのライナもカチンときたのか、強気な態度を見せる。



「ほう?面白い冗談だな。やってみろ」



歓喜の表情を浮かべ、アポロンは笑う。



「上・・・等ッ!!」



キッとアポロンを睨みつけると、全身へ魔力(ディーガ)を流す。



開かれたライナの口からは、詠唱が零れ出した。



「静寂の輪廻。万物の浄化。白濁にまみれた霊宝の光。混濁の果てで待ち侘びるは、戦塵の光。黒々と穢れた人(じん)の道。白々と澄んだ魔の道。交わることなき流転の宿命(さだめ)。白か、黒か、決めるは我。汝にあらず。我が好むは、穢れありし白。穢れなき白は、白にあらず。汝、遺恨になりて黒を舐めよ」



   エターナル・オルタナティブ

「聖なる霊楼覇」



偶然か、はたまた必然か、つい先刻ガイアが用いた魔法を、ライナがこの場で用いた。


しかも、詠唱を唱える、完全型魔法という形で。



ライナの手から、光が線となって放たれる。


圧倒的で、絶大な力を持ったそれは、凄まじい速度でアポロンへ迫る。



だが、対するアポロンは、これといって焦るわけでも、驚くわけでもなく、先程同じ、憐れみを浮かべた。



「やはり・・・この程度か・・・」



息を大きく吸う。


次にアポロンが発したのは、魔法名・・・。




     ヘカトンケイル

「神々ノ巨壁」



小さく、消え入りそうな声で、呟くように魔法を発動する。


だが、ライナは既に気付いていた。


消え入りそうな声で、というのは、正確には誤りであることに。

ただただ、面倒なだけなのだ。


ライナと戦うのが―――。





アポロンの姿を覆い尽くす形で出現した、巨大な壁。


そこには、50の顔と、100の手が刻まれていた・・・。




一瞬、ライナはその見た目にぞっとなった。


だが、攻撃の手を緩めるわけにはいかない。



魔力(ディーガ)を込める手に、更に力を込める。



「喰らえッ!!!」





聖なる霊楼覇(エターナル・オルタナティブ)と、神々ノ巨壁(ヘカトンケイル)との距離が、ゼロになった。




人間と、神の、最初の激突。





その結果は、あっけなく、しかも最悪な形で終わることになる――。




無論、消されたのは、ライナの魔法。


聖なる魔法(エターナルシリーズ)の中でも群を抜いた破壊力を誇る魔法が、いとも容易く、赤子の手を捻るように、掻き消された。




後に残るは、無傷の、壁。





「・・・」


驚きの声を上げることも、アポロンへ罵声を飛ばすこともせず、ライナはただ、沈黙していた。




大きく息を吸い、呼吸を整える。


直後、ライナの周囲の空気が、歪んだ。


同時に、凄まじい速度で回転を始める。





   デーリティ・セカンド

「鬼憑型・弐」



ライナの体から、眩い光が放たれる。



ケルベロスの力を引き出し、肉体に憑依させる。



光が終息し、ライナの姿が確認できるようになったのは、一瞬あとのことだった。





背から一対の翼を生やし、全身に羽衣を纏い、冷徹な目で、アポロンを見つめる。




「いくぜ、アポロン!!!!」




緑、赤、白、蒼。



様々な色の魔力(ディーガ)が、ライナの体が溢れ出る。





   ストーミール・エルブラスティアン

「嵐撃煉鶯双牙!」


   バーンメント・バズーダ

「炎火爆裂弾!」


ガーメント・グラッチパウンド

「濁流剛塵破!」


  レイリュード・ショット

「光龍破撃!!」



風が、焔が、濁流が、龍が、同時にライナの体から飛び出た。



四方に散ったそれは、ライナが腕を振り下ろすと同時に、天を駆ける。


対象は、無論のこと、アポロン。













「喰らええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」




ライナの怒号が、闇に響く。


4つの大魔法が、アポロンへ―――。





「やはり・・・この程度か」



先程と全く同じセリフを、アポロンは零した。




そして、先程と同じ魔法を、ひどく悲しげな表情で、唱えた。



     ヘカトンケイル

「神々ノ巨壁」


50の頭と、100の手が、ライナの前に立ちはだかる。







凄まじい轟音と、夥しい量の粉塵が、神々ノ巨壁(ヘカトンケイル)を中心に、巻き起こる。



あまりの衝撃に、ライナは両手で目を覆った。

そうでもしなければ、迫る粉塵が、ライナの目を潰していたからだ。



粉塵が完全に止んだのは、それからしばらくの後だった。




覆っていた手をどけ、目を開ける。



「やべっ・・・やりすぎた・・・」


苦笑いが、自然と浮かぶ。


















だが、その笑みも、すぐに引っ込んだ。



あとに残ったのは、驚愕と、嘆き。







「やはり、つまらんな。いつの世も、同じだ」




アポロンが零したその言葉は、ライナの心を、深く、深く抉った。


嵐撃煉鶯双牙(ストーミール・エルブラスティアン)。


炎火爆裂弾(バーンメント・バズーダ)。


濁流剛塵破(ガーメント・クラッチパウンド)。


光龍破撃(レイリュード・ショット)。



どれもこれも、高ランクの魔法ばかり。


一般人には踏み入れることさえ許されない、強者の高み。




だが、それはただの勘違いにすぎなかった。




ライナはこの日、努力ではどうにもならないことを、初めて知った。






ライナの目の前には、僅かに焦げ目がついただけの、神々ノ巨壁(ヘカトンケイル)が、高く立ちはだかっていた―――。






ライナの連撃が、心が、今までの思いが、音を立てて崩れていった・・・。



第7章  第12話   完








いつもより短いですが、気にしないで下さい♪




今年最後の小説更新です☆



対アポロン戦は、あと4話!!



立ちはだかる巨大な存在。

それこそが、アポロンが神たる所以。


全ての攻撃が通じぬライナは、どう戦うのか。



この続きは、2011年で!!!




次回、第7章第13話


本気ですらないアポロンと、本気を越えてぶつかるライナ。

2人に隔たる壁はあまりにも高く、厚い。


しかし、この壁を越えない限り、アポロンに触れることさえ敵わない。


ライナは、更なる高みへと登ること誓う―――。


第7章第13話

―俺が、ライナ・ウェルドだ!!―




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