前略 X様

阪神が勝てないのはよくある事だが、身内の病気はそうしばしばあっては困る。
韓国のオンニの病気見舞いの為に、国慶節に予定していた長春・ハルビン旅行をキャンセルした。
4年ぶりに訪れた韓国はそう変わったところもなく、やっぱり先進国の都会はええなあ、と思った。
うまいメシ、便利な交通網、そしてお洒落で垢抜けた若者達のおかげで、中国の片田舎から来た僕はすっかりお上りさんになってしまった。

現在、韓国はマクロ経済的に危機に瀕していると言って良かろう。
しかしソウルにも水原にも特に差し迫った危機を感じさせるものは見えなかった。
むしろ中国には無い規則正しさや豊かさを謳歌していたように見えた。
水原のオンニが住む街角は、車は道に溢れているが皆よく信号を守り、道の両脇には飲食店や日本のコンビニが立ち並び、店内は清潔で行列も崩れることは無い。

テレビのニュースではまた著名な芸能人が自殺したというニュースをひっきりなしに流していた。
経済貿易関係の危機と、中国産乳製品のメラミン混入と、崔真実の自殺のニュースしか韓国には無いのか、というくらい、この3つのニュースだけが世間に溢れていた。
特に崔真実自殺だが、そのニュースの解説でも出ていた通り韓国人はよく借金する。
カードを使い、親戚身内知人のネットワークを総動員して借金しまくる。

借金をし、資産運用をして旺盛に消費をするという面だけから見れば、まるでアメリカ人のようである。
一見、日本と同様な高度の消費文明によって手堅く運営されている韓国の都会も、どことなく危なっかしく感じられるのは、その文明の基礎が脆弱であると僕が思っているからであろう。
文明の基礎となるものとは、要するに堅実な文化であると僕は思っている。
ところが今回、そういう所を注意してよく観てみたつもりだったが、韓国にはその堅実な文化が根源的に感じられなかった。

僕の老婆はよく「朝鮮は日本と中国の中間。地理的にはもちろん、文化的にも文明的にも何でもそう。」という言い方をする。
日頃よく感じることでは、几帳面で清潔さを好む習慣やルールを守る律儀さは有るが妙に神経質な所などは日本人に近いな、と思う。
一方で、特に中国にいる韓国人について感じることだが、明るく気さくで陽気だが主観が強く何事も大げさ所は中国人に近いと思う。
血液型でよく言う性格論で言えば、日本的な部分はA型的で、中国的な部分はB型的である。

ちなみに僕の性格は所謂典型的B型であるそうなので、日本語が通じない相手にはよく韓国人や台湾人やシンガポール人など日本人以外の外国人に間違われる。
そしてA型にもB型にも良い面と悪い面があるが、韓国人は両方が入り混じってAB型的な複雑な性格を見せる。
その複雑な性格が複雑な誤解を生んでもいる。
例えば韓国人が日本や中国に向ける敵意である。

日本に対しては、前にも書いたが独立したいという感情が強い。
経済的にも文化的にも日本への依存度が高い現状はプライドの高い韓国人には我慢がならないだろう。
しかし独立戦争を戦い抜いて手にしたのではない現体制について、多くの韓国人は非常に懐疑的であると感じる。
外国人から見ると馬鹿馬鹿しい北朝鮮への傾斜は、この戦い抜いて勝ち取った独立の正統性の有無という問題を抜きにしては理解できない。

この単なる反日ではない、依存的反抗と言おうか、そういう反抗期の子供が親に対して見せるような敵意と甘えの並存が、韓国が日本に向けて見せる複雑な感情を読み解く鍵になると最近僕はよく思う。
一方で、韓国は中国に対しても旺盛な独立志向的反抗心を向ける。
但しそれには日本と同様、多分に軽蔑と焦りが入り混じっている所が悲劇的である。
文明的に遅れている部分が軽蔑の感情となり、後から来たのに追いつかれそうになっているという部分が焦りの感情となっている。

朝鮮は、近代日本帝国の支配を受けて初めて本格的に中世的な中華帝国から切り離された。
それまで中華文明圏の他の周辺民族と同様、長い長い中世的支配体制の下に在ったのだが、一足先に日本を介して欧米的近代国家の一部になった。
だから日本に対しては「この野郎」と思う反面、「まだまだ敵わないな」と思う所があるが、中国や日韓以外のその周辺国に対しては露骨に軽蔑するところがある。
ところが韓国の昔の文化も文明も、中華の亜流そのもので、だからこそその過去を振り払おうとするように漢字まで捨ててハングルだけの世界を作ったのだろう。

そういう複雑な感情を抱え、日本風に文明を発達させた韓国の都会だが、僕には居心地が良かった。
老婆はオンニのこともあり「老後は韓国に住もうよ。あんたもさっさと韓国語しゃべれるようになって。」と言い出す始末だ。
僕は今の段階ではそこまで思い切れないが、大連開発区に比べて水原の居心地が途轍もなく良いというのは事実だ。
まず、メシがうまい。

僕の老婆の姉の夫、つまり僕にとっては義兄に当たるのでヒョンニムだが、そのヒョンニムは水原でチゲの店を出している。
このチゲがえらく美味い。
それから水原はカルビの本場である。
今回もヒョンニムに水原の名店に連れて行ってもらったが、言葉に表せない程おいしかった。

それからソウルでは会社のソウル事務所の日本人の同僚にブデチゲの店に連れて行ってもらったが、これがまたえらくうまかった。
明洞では何気なく入った店の石焼ビビンバも美味であったし、とにかく何を食べても美味しくて胃の休まる時が無かった。
韓国にはその堅実な文化が根源的に感じられなかった、と上には書いたが、この現代韓国の食文化は非常に高い水準に達していることは間違いない。
最近、僕は老婆に「やっとキムチの味の違いが判るようになって来た」と評価されているくらいなので、日本人としては味覚が特別なのかも知れないが、それにしても素晴らしかった。

あと、韓国人は日本という国に対してはあからさまな敵意を見せるが、日本人個人に対して馬鹿馬鹿しい敵意を見せることは殆ど無い。
むしろ日本人個人に対しては一般的に礼儀正しく親切で、これがまた日本人にとっては居心地の良いところである。
世論調査や意識調査で日本人が嫌いだという韓国人が半数を超えたとかいうニュースがよく出るが、何か数字を操作しているのではないかとすら思う。
もちろん、上記に述べた如く韓国人の心中は複雑であるから、個々の日本人に対しては親切でも、「日本」という国家や集団が相手になると克服の対象となり敵意を燃やす。

この複雑さに理解を示せないと、韓国人は日本人から見て単に火病で頭のおかしい集団としか見えないので、日本人の特に男性は韓国と韓国人を知れば知るほど韓国人を嫌い、軽蔑するようになっていくのではないかと思う。
2ちゃんねらーのハン板の住人や、「嫌韓流」で韓国の真の姿の一端を知って本格的に韓国嫌いになった連中はその類であろう。
一度徹底的に嫌い抜いたら「彼らは何故そうなってしまったのだろう?」と思い、研究しようという好奇心さえ失せ、普遍化の埒外の対象としてひたすら侮蔑しまくるという、まるで戦前の一般的日本人のようなステロタイプな半島人に対する感情が固定化する。
ところで僕は身内に韓国人がいるので、韓国人一般は好きでも嫌いでもないが、韓国という国家に対してはその存在そのものに受け入れ難い違和感を感じることがある。

その違和感の正体について、僕はこれまで韓国の歴史文化的遺産の実物を現地で見たことが殆ど無かったので深く考えたことがあまり無かったのだが、今回初めて景福宮や南大門(の跡地)を見ていろいろ考えてみた。
また長くなったので、景福宮については明日書くが、一口に言うと中国の「面子」、日本人の「恥」に当たる文化キーワードは韓国の「見栄」である。
韓国は想像以上に複雑で奥が深い。
僕も結構長い間、韓国と韓国人、更に今の女房と出会ってからは朝鮮民族全体についても考えてきたつもりだったが、やはり現地でいろいろ考えながら見ることが大事だ。

それにしてもオンニの病気のおかげで韓国について考えが深まるとは思わなかった。
韓国にはこれから何度も行く機会が有るので急ぐ必要は無いが、もう少し本格的に韓国語とハングルの勉強をする必要があるな。
しかしその前にもっと中国語がうまくなりたい。
韓国の奥深さも魅力的だが、中国も無論奥深く、更に幅広く眼前に広がっている。

早々