前略 X様

松岡正剛「誰も知らない世界と日本のまちがい」読了。
うーん、よく出来ているんだが評価が難しい本だ。
だいたいこれは「まちがい」ではなくて「誤り」ではないかな?
僕の学生時代にこの本が有ったら、かなりのめり込んだ、というか、特に西洋哲学や思想の潮流の概説としては非常によくできているんだが、うーん、何と言うか。

「まちがい」が有るのだから、「正解」が有るのかと思って読み進めていたが、その「正解」の内容が実はよく解らなかった。
僕がアホなんじゃろか?
いや、書いてあることは非常によく理解できて感心したのだが、期待に反してそれほど衝撃的なことが書いてあるわけではなかった。
大筋については僕が既知のことが多かったからかも知れないが、つまらない間違いが多く目に付いて少し落胆した。

ドルゴンってな、ホンタイジの息子やなくて、弟やで。
そういう詰まらぬミスは、編集者が直しておくものではないのかな?
そう言えば最近出た本はホンマにこういうミスが多いな。
編集者が本を読んでいないのではないかな?

最近の学生は万巻の書を読まずにネットで情報を検索して、それでレポートも論文も一丁上がり、ってな作業をする奴が多いらしいが、それでは効率は良くても頭は悪くなるばかりじゃな。
昔の偉い先生は、頭の中にディレクトリが出来ておって、一つのキーワードで随分と沢山の言葉を思いついたものだが、こういう世の中では後世畏るに足らずじゃな。
僕もその尻尾のそのまた端っこに連なっていると思ってるが、僕の場合は端境の世代やからネットで検索するのも得意やで。
じゃぁその辺の出版社の若造にはまだまだ負けられんの、ふぉっふぉっふぉっ。

でもまあ、たまにはこういう本も読むと為になるな。
西洋哲学なんて、忘れかけてた。
この本は、例えばシュヴェーグラーの「西洋哲学史」とか、別冊宝島の「現代思想入門」なんかよりも余程わかりやすいのと違うかな。
それとも僕が既にそこを通り過ぎたから、解り易かっただけかな。

で、改めて思ったんだが、東洋哲学は直観的であるあまり、分析が無くて解説がしにくいな。
中心が無いのはええのやが、分析と展開が無いので、進歩が無いと言えば進歩が無いな。
それが遅れてるとか、前近代的やとは思わんが、西洋人に解り難いことは確かじゃな。
体系が無ければ学問にならんとは思わんが、スタディには出来んな。

スタディに出来んと言うことは、現実への適用が難しいということじゃな。
現実への適用が難しければ、競争や戦争には勝てんわな。
大和魂では戦争に負けるわけだ。
ただでさえ無理が通れば道理が引っ込むのに、その道理がヘナヘナでは、中国にはこりゃ勝てんな。

前に「香港日記」で「次こそ勝たねば」ということを書いたら、「それはちょっと違うんではないか?」というコメントをされたことを、今、ふと思い出した。
コメントした人は「勝つ」というと、血が流れる戦争を思ったのだろうが、戦争になるような対立は何も血が流れるものばかりとは限らぬ。
特に対米戦では戦う前から敗れていたのだから、猶更である。
先制攻撃をかけるのに、帝国軍部が「孫子の兵法」も知らぬのでは話にならぬ。

だから「次こそ勝たねば」というのは、国民国家の発展度がどうの、とか、地下資源がどうの、という話ではなくて、国家のマネジメントを何とかせえ、という話なのである。
そしてマネジメントというのは、確率とかリスクで以って考えて手を打つということができないとどうにもならないのだが、それは西洋思想の独擅場なのである。
薩摩の「義を言うな」では、九州は統一できても、天下は統一できないのである。
つまりは組織にマネジメントが無いというのは、その組織が田舎者の組織であるということなのである。

そういう意味では、日本の組織は中国に勝るとも劣らない田舎者の組織であり、日本は田舎者国家なのである。
松岡正剛の言う通り国家や社会に優生思想を持ち込むのは「まちがい」なのかも知れないが、我々は個人も組織も限られたリソースでもって最大の成果を挙げようと努力せざるを得ないのである。
組織でも個人でも生存競争を否定するのはナンセンスだ。
ならば努力すべき方向は、例えば侵略を止めさせることではなくて、なるべく全体のバランスを崩さず、他人に迷惑をかけず、しかも守り抜くことができる力を持つという究極の強さであろうか。

これは墨子の思想である。
しかしこの本は中国の思想に殆んど言及していない。
上記に挙げたようにドルゴンが何者かを知らぬところを見ても、松岡正剛は中国のことをよく知らないのかも知れない。
この本を読んで何だか物足りない、と言うか腑に落ちないのは、諸子百家のように現代の政治状況に結びついていない思想には言及していないからだろうか。

しかしそれでは「正解」とは言えぬなあ。
「まちがい」は分ったような気もするが、中国は言うに及ばず、イギリスなんぞ何が有っても「まちがい」なんか認めんぞ。
チベット問題でも、中国が言っている事が全てウソというのは早合点かも知れぬぞ。
何と言っても、歴史に明らかな通り、一番の厚顔無恥で、一番の陰謀家で、一番人をバカにしているのはイギリス枢軸なのであるし、世界中の民族紛争のほぼ全てに直接間接に関っているのもイギリスなのであるから。

早々