前略 X様

大連に来たばかりの頃、日本語の番組や映画が見たいと思ってレンタルビデオ店を探したが無い。
香港ではレンタルビデオ店のおかげで、日本の民放バラエティ番組やドラマを思う存分見られたのでテレビ画面を見ていても飽きなかったのだが、大連では日本語番組と言えばNHKの衛星放送しか見ていないことが多く、すぐ飽きる。
仕方が無いので、恐らくは海賊版であろうDVDを買って日本のドラマとか映画とかを見ている。
不本意だが正規版は殆んど手に入らないので仕方が無い。

もしも映像会社が著作権を守りたいのなら、中国大陸全体にレンタルDVD店を作らねばならないだろうが、多分CCC(ツタヤ)でもそれは無理だろう。
レンタルDVD店網を作ったところで、値段が高ければ中国人は利用しないだろうから、店を維持することも覚束ない。
そこまでやって著作権を守ってメリットが有るだろうか、と考えてみる。
試算するまでもなく、無駄な足掻きだろう。

そういうわけで、映像著作権というものが無いに等しい中国で楽しく暮らすには、不本意ながらその辺で売っているペラペラのDVDを買って家で見るしかない。
昨日は阪神が中日、というより中田に完膚なきまでに叩きのめされて首位から滑り落ち、腐っていたので、何か景気の良い面白い話が見たいと思い、「バブルへGo!」を見た。
これが意外と面白かった。
ホイチョイの映画の中では今までで一番面白かったのではないか。

映画を見終わって、懐かしく、そして少し切ない気分になった。
あの頃、僕は京都で貧乏学生生活を送っていたので、映画の中で描かれたような狂乱とはほぼ無縁だったが、時代の雰囲気そのものは感じ取っていた。
就職活動を始めたばかりの頃、僕は既にこの狂乱景気が直ぐに弾けるバブルであると見ていた。
それで理科系だったにも関らず、給料の良さに引かれて銀行に就職しようとしていた友人に「大丈夫か?」と言っていたものだった。

するとその友人は「日本の巨大銀行が潰れるようなら、世界経済も破滅さ」と言い放った。
そういう当時の一般的な大学生の気分を、劇団ひとりが好演していて懐かしく、切なかった。
あの頃の同級生で、一番要領が良かったのは電通へ行った。
次に要領が良かったのは大手銀行へ誘われるがままに就職していった。

その二つの業種へ行った連中は、きっとあの時代を一番懐かしく思っていることだろう。
だから広末涼子に「バブルって最高~♪」と言わせているホイチョイの連中自身が、誰よりも懐かしいと思っているのだろうと思った。
タイムマシンでバブルを急激に弾けさせないように工作するコメディーの作り、そしてあの時代を感じさせる小道具や人物を使ったフォレスト・ガンプ風の年代記。
そういう話の作り方は、実はホイチョイの十八番だから、多分パッケージを見なくても僕はこの映画がホイチョイの映画だと判ったろう。

ところで、この映画は大蔵省だけを悪役にし過ぎているようだが、僕は連中がそれ程のワルだとは感じていない。
確かに、大日本帝国の軍部と同様、先の見通しを見誤った愚かさはあったのかも知れないが、映画の中で伊武雅刀演じる所の芹沢局長ほどの確信犯であったとは思えない。
しかし映画の中の料亭のシーンで居並んでいたような外国人投資勢力が89年末を境に売りに回っていた事は確かだろう。
映画の中で歴史を変えるポイントになっていた90年4月1日の不動産融資の総量規制が馬鹿げたタイミングだったというのは定説だろうが、あれはバブル崩壊の最後の一押しだったのではないかと思っている。

実は失われた十年の間、日本政府はこれ以外にも様々な失策を犯している。
一々挙げていたら切りが無い。
日本国民というのは、政治家の失策は1円単位で追及するくせに、官僚の失策というのは何故か放ったらかしだ。
だから大東亜戦争の総括すらも自力では出来ない。

何だか暗い話になった。
こういう風に日本の政治の過去と未来を考えると暗い気持ちになる。
だから悪者を見つけ出して、やっつけるというこの映画のような筋書きはスカッとする部分もあるのだが、僕はやはり少し後ろめたいというか、悔いが残る感じだ。
あの頃も、そしてひょっとすると今も、日本が失敗し続ける根本的な原因を僕自身がよく分かっていないから。

早々