先々週、夫が仕事中に「電話して」と急にLINEをしてきた。
ここ最近の夫の状態を考えると、悪い知らせの予感満載だった。
うつ状態がひどくなり、なにかしてしまったのかと思ったのだ。


すぐに電話をかけると、夫はこう言ってきた。



今、仕事辞めるって上司に話したよ。


と言われた。


えっ⁇


としか、返せなかった。
夫は以前から調子が悪くなると「仕事を辞めたい」と言っていたが、突然すぎた。
いや、調子が悪いときはいつも突然何かを起こすのが夫なのだと、即座にわたしは思い直した。
これは、何かあったのだなと思った。


とてもツライとき、そのツラさに耐えきれずに、リセットボタンを押す。
それは、癖のようなものだ。
本人は暗闇に引き込まれてしまっていて、なにも見えていない。
そこからどうにか逃げ出すために、なにかしらのアクションを起こすのだ。

何回かの自殺未遂も、ある。
今回は、退職することだった。
本人は暗闇から抜け出すために必死なので、全否定はできない。


今すごくしんどいから、いったん休ませてもらおう?
少し落ち着いて、考えよう?


となだめ、その後一日中わたしの頭の中はてんやわんや、超不安定で色んな人にこの「旦那さんが仕事辞めちゃう事件」のことを話した。
そして1人でこんな問題抱えられるかっ‼︎と思い、夫のご両親にも電話をしたうえに、入籍したての分際でお二人に逆ギレしてしまうという失態までおかした。
何度も仕事を辞めたいと言っていた夫が、もう限界なのかもしれないとご両親は言ってきたからだ。
しかし、電話で少し聞いた夫の話も、ご両親の話もハッキリ言ってわたしには全然ピンとこなかった。


今回の引き金は、なんだ?


安いサスペンスドラマ的に、だいたいのことを予測してみたりした。
夫のご両親から聞いた職場の上司の話がどうしても気になっていたし、そのまんま受け入れているご両親に違和感しかなかったのだ。
そこには、他人(夫の上司)の考えが強く入り込んでおり、夫が自らの意思で強く退職を願っているという感じがどうしてもしなかった。
毎日仕事に行くのがツライのはよくわかるが、急に突然、辞めるだろうか?


「言えなかったのかもしれない」
「もう限界なんだと思う」
「本人の意思は固いと、上司の方にも言われた」


もちろんそのへんは理解しているが、意思が固い人間が、わたしに「少し休んで落ち着こう」と言われ、「わかった」と言うだろうか。



長い一日が終わり、やっと夫と顔を合わせることができた。
そして、その夜ゆっくり話を聞いてみた。


とても、ツライと言ってきた。
泣きながら、死ぬことが頭の中に浮かんでしまうことを吐露してくれた。
でも死んではダメだから、そしたら何かを変えるとしたら仕事しかないと思った、と涙が溢れる目をまっすぐこちらに向けて、伝えてくれた。



やっぱりね。


と、わたしは思った。
本人は生きることを最優先に、必死で行動しているのがよくわかった。
仕事は、二の次だ。
彼の中でそのくらいの存在のものが、今さら心から辞めたいと思うだろうか。
わたしに言わず、急に。


よく話を聞くと、やはり引き金は職場の上司から言われた言葉であった。
それは、なんとか踏ん張ってそこに立っている夫のプライドを傷つけ「人に迷惑をかけている」という気持ちを増長させた。
いや、上司の方の気持ちもわからなくもないので、悪人とは全く思わない。
むしろ、病気に気づかい、仕事の振り方などのフォローもしてくれているほうだ。
しかし夫はそのとき、心の中のコップの水がいっぱいいっぱいだったため、すぐさまビャビャーッと溢れたのだ。



今きついのは、よくわかった。
死にたい気持ちを我慢してくれて、本当にありがとう。
でもね、今回の「辞めたい」は、人の言葉によって言わされたものだよ。
そしてそれは、病気だからしかたない。
今、ケーちゃん(夫)は本当に仕事を辞めて新しいことをしたいのかな?
自分のために、一回落ち着いてみよう。



本当は今回の「旦那さんが仕事辞めちゃう事件」の全貌をハッキリと言いたかったが、涙を流しながらつらい今の自分の状況を話してくれる夫に、それは流石にキツイだろうと思った。
わたしは、病気ではない。
ツライのは夫であり、なにがどうだとかは、今の夫には関係がないだろう。


夫は、自分が人に迷惑をかけていると思うことがいやなのだ。
そんな自分が、許せない。
そしてさらに、わたしのことまで気にかけ出した。


ケケちゃんが、うつ病の俺の奥さんだってみんなに見られちゃう。
仕事もできないのに辞めないでいる俺の奥さんって言われる。



なんだかドラマみたいな場面だなと思いながら、わたしは「一体誰にそう思われるんだろう?」と考えたりした。
夫は、今の状態の自分がいやでしかたがないのだ。
当たり前だ。
しんどくてたまらないのに、毎日できもしない仕事に行くなど、きついだろう。
わたしであれば、「すいません、病気がどうしてもきついので、仕事は今はできません。それでも休みを取らずに、出勤したほうがよろしいですか?」と聞いてしまうだろうが、もともとそんな図々しい奴は、このような繊細な状態にはならないので、お話にならない。

まぁそんなわたしなので、心の底から、人からどう思われようが関係ないのだ。
そのことをきちんと夫に伝え、被害妄想でパンパンになってしまった夫を落ち着かせた。


人に迷惑をかけてしまう。


この言葉に敏感な人はけっこう多いと知ったのも、わたしは最近である。
そんなの当たり前だと思っていたからだ。
それを言ったら、わたしはこの世に生まれたときから迷惑しかかけていない。
お母さんがいないと生きれないし、お父さんの稼いでくる金がないとご飯が食えなかった。
大人になってからは、金が足りない時に男友達から借金をしたこともあるし、今でも1人で生きていけるなどと思っていない。
他の人はちがうのだろうか。


これをもっと書いてしまうとわたしのカスっぷりが目立ってしまうのでやめておくが、そんなわたしと結婚した夫は、とても繊細で気にし屋さんなのだ。
そのくせわたしにはよく、あって欲しくない大胆なサプライズをしてくれる。
これもまだまだ結婚1カ月の新米妻だから、動揺してしまっただけだろう。
そのうち慣れていきたいと思う。



ということで、2週間した今、夫は辞めるのは無くなったと言っている。
わたしからしたら、人生に関わる重要事項であるので即座に話をしてほしかったが、夫はその件を1週間後に伝えてきた。


別のよい上司の方が、ちゃんと止めてくださっていた。
さすが、世の中変な人ばかりではないと見直した一件だった。


びっくりしたぜ、この野郎!