通常エントロピーといえば、熱力学の物理法則として取り扱われるが、エントロピーが低い(乱雑さが小さい)ということは、情報量が多いということと同じであり、エントロピーが高いということは乱雑具合が大きいということだから、そこから得られる情報量が小さいということになる。

 

従って、コンピュータ上で、データをデータベース化して保管する、タグをつけてリスト化するということは、情報として意味づけをすることで、情報エントロピーを低下させ、情報量を大きくすることにほかならない。情報エントロピーが大きいということは、熱力学エネルギーも大きいということであるから、データをデータベース化すると、電気エネルギーを多く消費することになる。

 

情報の保管とは、物理的なものを、モデリングしてコンピュータ上にデジタル化して保管するわけだから、物理的な系におけるシステムと違って、コンピューター上で仮想的に現実世界をモデリングした上で、シミュレーションをして、未来を予測する。消費する自由エネルギーは物理世界の実験に比べて、非常に小さい。脳の中でも、コンピュータのように生成モデルを構成し、環境のデータを捕捉した上で、推論、行動を繰り返している。それは、物理的な動きを通じて環境に適応するより、短時間で消費エネルギーを小さく、環境に適応できる。

 

さらに人間がコンピュータを使うことで、脳を補完的にサポートすることができる。人間の脳のように少ないエネルギーで、短期的かつ最適な判断をするための判断材料を得ることができる。情報は、少ないエネルギーでデータ化され活用される。デジタル資産を世代を超えて受け継ぐことができれば、情報エントロピーは増大せずに、情報量を増やし続けることができるかもしれない。

 

そのデータの寿命があれば、保管したデータも金からガラクタになり、情報エントロピーも結局は増大するのであろう。そうやって情報エントロピーが増大してしまうことをできるだけ遅めるために、昨今ではデータサイエンスや人工知能を使って、ビックデータから知見を見出す動きが活発化している。情報ネゲントロピーを作り出して、データの風化をできるだけ避けようとするわけである。しかしこれはいたちごっこであり、今後も秩序あるデータの量は増えていくであろうが、一方で、地球規模の動きからは、そのデータを大幅に失ってしまう事態が、いつ発生してもおかしくはない。また捕捉すべきデータも時事刻々に変化するとすれば、コンピューターによるデータ処理のリアルタイム化はますます進み、そもそも長期間データを保管するニーズが減ってゆくのかもしれない。