生死即涅槃というように、生きる力とは生死の力、煩悩への執着をする力である。生きる力を持っている人は、生きること、煩悩に執着することで輝き、人を魅了する。人間には、潜在能力というものがあり、自我の限界の力を超えることができるとすれば、その潜在能力さえも発揮してしまう人は、生きる力が強いと言える。そのような人は、今に着目し、後ろは振り返らない。執着も一過性であり、常に全機を心がけるであろう。

 

私は大谷翔平選手の大ファンだが、彼を見ていると、まさに全機、過去を振り返る前に前進する姿勢を感じる。

 

さて生物にはサーチュイン遺伝子という、サバイバルに対応するシステムを太古の時代から獲得したそうだ。人間が生死に関わる危機的状況、飢餓状態になった時に、サバイバルシステムが作動し、生きる力が強まるというものである。驚いたことにこのシステムは菌や線虫などの原始生物にも備わったものだそうだ。このシステムは、人間が普段の70%の食事を続けることによって作動し、それによって寿命が延び、若返りが実現するそうだ。

 

このシステムが作動しやすい条件とは、実は普段からご飯を70%しか食べない人ではない。普段は、100%かそれ以上のカロリーを摂取していて、そこから70%程度に減らした場合、実際は普通の人の100%に近いカロリーを摂取していても、このサバイバルシステムは作動するそうだ。だから、飢餓状態といっても相対的なもので、普段のカロリー摂取に対する相対的な現象が、システムを作動する条件だそうだ。

 

これらの理由から、実は平均的に長生きするのは、痩せている人よりちょって小太りの方であるそうだ。もちろん肥満は成人病と短命を引き起こすものであるが、サーチュイン遺伝子を活性化させ、結果として長生きするのは、痩せ型ではなく小太り型なのだ。

 

これは面白い事実である。一件不健康に見える小太りな状態が、実は長生きし、若返る秘訣だという。別な見方をすれば多少不健康な方が、自己が持つ健康に関する潜在能力を引き出し、結果として長い時間健康を保つことができるということである。

 

生死即涅槃の話に戻せば、生死を弱くすることが涅槃に近づくことだとしても、強い生死が強い菩提心に繋がり、涅槃に近づくことも事実なのだ。煩悩はあり過ぎてそれを無限に追い求めれば、菩提心どころではなくなってしまう。それは「小太り」でなく「肥満」は早死に繋がるのと同じである。一方で、程よく煩悩に執着して、菩提心を持つことは、涅槃への近道である。美味しいものを食べ、食に執着しつつも絶食し、サバイバルシステムを発動させる。それが、生きる力の潜在能力を引き出すのである。涅槃への近道とはそういうことであろう。