AIロボットを開発する「智元機器人(Agibot)」(全称、上海智元新創技術)は8月18日、商用人型ロボットの新製品として「遠征(RAISE)」シリーズの「遠征A2」「遠征A2-W」「遠征A2-Max」、「霊犀」シリーズの「霊犀X1」「霊犀X1-W」、合わせて5機種を発表した。

智元機器人を創業したのは、かつてファーウェイ(華為技術)の天才少年と呼ばれ、中国の人気動画サイト「ビリビリ動画」でフォロワー数250万人を誇る「稚暉君」こと彭志輝氏だ。2023年2月の設立以降、紅杉中国(Hongshan、旧セコイア・キャピタル・チャイナ)、百度(バイドゥ)、上海汽車集団(SAIC MOTOR)などから6回にわたり資金を調達、評価額は70億元(約1400億円)を超える。

 

ロボットプロジェクト「智元機器人(Agibot)」で注目を集める中国のスタートアップ企業「上海智元新創技術」は、第1号製品となる人型ロボット「遠征A1(RAISE-A1)」の構想が公開された。上海智元新創技術といえば、ファーウェイ(華為技術)が採用した「天才少年」として知られる「稚暉君」こと彭志輝氏が共同創業者ということで有名だ。彭氏はファーウェイを離れて2022年2月に同社を創業し、チーフアーキテクト兼CTOを務めている。

工場用として開発された遠征A1は身長175センチで体重53キロ、最大時速7キロで安定して歩くことができ、自動車のシャーシ組み立てラインでボルトを締めたり、検査器具を手に完成車の外観検査をしたりする。いずれは執事のように家事を取り仕切ることも可能だ。高齢者に薬とともにコップに水を注いで渡したり、卵を割って料理したりする。また子どもの宿題を見てやり、よくできていれば、賛辞を表すためにゆっくりと親指を立てる「サムズアップ」をしてみせたりもする。

工場用として開発された遠征A1は身長175センチで体重53キロ、最大時速7キロで安定して歩くことができ、自動車のシャーシ組み立てラインでボルトを締めたり、検査器具を手に完成車の外観検査をしたりする。いずれは執事のように家事を取り仕切ることも可能だ。高齢者に薬とともにコップに水を注いで渡したり、卵を割って料理したりする。また子どもの宿題を見てやり、よくできていれば、賛辞を表すためにゆっくりと親指を立てる「サムズアップ」をしてみせたりもする。

単に人のマネをするAIではない

遠征A1のスペックは、自由度(DoF)49、全身の耐荷重は80キログラム、片腕の最大負荷は5キログラムで、演算性能は200TOPSとなっている。

ロボットの機動性はコアとなる関節によって決まる。遠征A1は準ダイレクトドライブソリューションを採用し、重さ1.6キログラム、トルクが350Nmを上回る関節モーター「PowerFlow」を独自開発した。

二足歩行ロボットにとって脚部は非常に重要だ。遠征A1の膝は人間とは異なる逆関節の設計となっているため、可動領域にゆとりがあり、人間よりも機動性に優れる。彭氏は「単に人間に似せるだけではなく、しっかり働くものにしたいと考えた」と語った。

細やかに動く手のパーツ「SkillHand」も開発した。指先に視覚と触覚のセンサーを備え、能動自由度は12、受動自由度は5で、コストを1万元(約20万円)以下に抑えた。センサーがあるため関節のコアレスモーターの精度を下げることができ、コストが抑えられた。

ロボットは、カラー画像と距離情報を取得できるRGBDカメラやLiDARを通じて外部環境を感知する。上半身と下半身が別々に設計されており、利用シーンに応じて最適な手と脚のパーツを選ぶことができる。手はドライバーやドリルのような道具に変えることができ、下肢は二脚やホイールタイプなどの選択肢がある。

また上海智元新創技術はロボットが言葉や物事を理解できるようにするAIモデル「WorkGPT」も開発しており、遠征A1が自然言語を使ってタスクを自動プログラムすることも可能になるほか、人間の会話を理解し、周囲の状況を確認することもできる。

コストは400万円以下に

遠征A1の利用シーンとして、まず製造現場を想定している。例えば、自動車組み立てラインやその他各種ラインではボルト締め、接着剤塗布、外観検査などを担当し、研究室では材料の配合や生物実験をすることができる。現在すでに複数の製造業分野の有力企業と接触しており、来年にも商用化段階に入るとみられている。

その後は一般消費者向けに家庭での利用を想定し、料理をしたり、家政婦や介護士としての利用を期待している。例えば料理なら、中国料理の炒める・焼く、西洋料理の蒸す・煮るなど各工程の作業ができる。

料理のほかに洗濯などの家事もこなせるようにしたいと考えている。洗濯機と組み合わせ、洗濯して衣類を干す、手入れや片付けといった一連の作業も行えるようにするという。また既存の介護用スマート機器と連携して、介護が必要な高齢者のケアをすることができるようにする。例えば、高齢者の指や腕の機能回復訓練のサポートや、栄養バランスのよい食事の提供などだ。

しかし人型ロボットが一般家庭で活用されるようになるにはまだかなり時間がかかり、5年から8年が必要だという。

遠征A1の国産化率は80~90%、価格について彭氏はまだ明らかにしていないが、コストを20万元(約400万円)以下に収めたいと考えていることを明らかにした。

 

 

遠征A2は相互コミュニケーションが可能な高さ約1.7メートル、重さ約70キロのサービスロボットだ。流暢な会話力と安定した運動機能を持ち、今回の発表会で司会者を務めた。

遠征A2-Wは2本のアームを持ち、足元がホイールタイプのスマートロボットで、平らな地面ならスムーズに素早く移動できる。発表会の冒頭で、遠征A2-Wが彭氏のために飲み物を作る様子が公開され、タスクの理解、複雑な動作の実行、両腕を器用に使う能力などが示された。

遠征A2-Maxは重量物を抱えることができる特殊ロボットで、40キロのコンテナボックスを運ぶことができる。力が強く細かな動作もできることが強みで、現在製品化を進めている。

「霊犀」シリーズの2種類のロボットは、彭氏の研究室「X-Lab」の10人のチームが3カ月足らずで開発した。

霊犀X1は全てがオープンソースのロボットだ。機械と機械との間でデータ通信を行う「M2M(Machine to Machine)」に対応、設計をモジュール化し、自由度が高く、安全で軽量、拡張性に優れるという特長を持つ。霊犀X1は本体の設計図やソフトウェアのアーキテクチャ、ミドルウェアのソースコード、基盤となる運動制御アルゴリズムなどをいずれもオープンソースとし、コア部品は販売するという方法を採用、彭氏はこれにより「誰もが人型ロボットを作る」時代の到来を後押ししたいと考えている。

霊犀X1-Wはデータ収集専門のロボットで、リアルデータ収集のみを行う。プレトレーニングの段階をサポートし、データ収集コストを低減する。

共同経営者でマーケティングサービス副総裁を務める姜青松氏は、今年10月に量産を開始する人型ロボットの出荷台数を約200台と見込み、ホイールタイプのロボット100台と合わせて、300台程度を出荷するとの見通しを示した。

彭氏によると、今回は動力、検知、通信、制御という4つの分野で新たな技術を開発したという。

動力に関しては、関節モジュール「Powerflow」の信頼性と安定性について最適化とテストを大量に繰り返し、手のパーツ「SkillHand」の自由度(DoF)は19に増えた。紹介動画では、小包を開封する、コップに水を注ぐといった日常生活での動きだけでなく、ボタンの穴に針を通すといった高い精度と細かな制御が必要とされる動作もこなしていた。

検知能力についてはマルチモーダルAIを採用、MEMS(微小電子機械システム)に基づいた触覚で、手の検知能力をより敏感にした。

制御領域では、遠征A2-Wに高精度のパワーコントロールが可能な自由度7のアーム2本を持たせ、目標位置に合わせた繰返し位置決め精度を実現した。

通信領域では、全てを自社開発した軽量で高性能なロボット通信アーキテクチャ「AimRT」を発表した。ロボット開発プラットフォーム「ROS(Robot Operating System)」などのミドルウェアよりも、性能や安定性、システムレイアウトの効率とフレキシビリティが向上しており、ROS1・ROS2のエコシステムと互換性がある。

彭氏は「人型ロボットは非常に複雑なシステムで、製造業全体のほぼ半分に関わるほどの製造能力を必要とする」と述べた。同社はこの1年間で、ソフトウェアとハードウェアの統合、サプライチェーン、生産プロセスなどの最適化を繰り返し、遠征シリーズを試作品から量産段階へと進めて商用化を実現した。

霊犀X1の設計情報について、最も重要な部分以外のあらゆる設計図からソフトウェアのアーキテクチャ、ミドルウェアのソースコードと運動制御コードまですべてオープンソースにすることも彭氏から発表された。また、今年10-12月期に、実機データ100万件、シミュレーションデータ1000万件の業界初となるエンボディドAIデータ集を公開し、エンボディドAI産業の発展と革新を後押しする。

智元機器人は、iFLYTEK(科大訊飛)や均普智能(PIA Automation)、軟通動力(isoftstone)、数字華夏科技、北電数智などと協力し、さまざまなシーンでのソリューションの商用化を目指す。また、上海人工智能実験室や中国科学院ソフトウェア研究所などトップクラスの研究開発機関と協力して、マルチモーダル大規模言語モデルとロボット操作システムに焦点を当てた技術開発に取り組む。