ロボットスタートアップの人機一体が川崎重工業の人型ロボット「Kaleido」に独自制御技術を実装した「零一式カレイド ver.1.1」を披露。アニメーション監督でメカニックデザイナーの河森正治氏とプロダクトデザイナーの根津孝太氏は、それぞれが工業デザインを手掛ける人型ロボットのコンセプトスケッチを公開した。

 ロボットスタートアップの人機一体は2024年8月1日、滋賀県草津市内で開催した成果発表会において、川崎重工業の人型ロボット「Kaleido(カレイド)」に独自制御技術「ハイブリッドオートバランス制御(HABC)」を実装した「零一式カレイド ver.1.1」を披露した。現在はPoC(概念実証)の段階だが、5年後の2029年までをめどに実用化を目指したい考えだ。また、「マクロスシリーズ」などのアニメーション監督でメカニックデザイナーの河森正治氏と「LOVOT」をはじめさまざまな製品を手掛けるプロダクトデザイナーの根津孝太氏が、それぞれ工業デザインを手掛ける人型ロボットのコンセプトスケッチを公開した。人機一体 代表取締役社長の金岡博士氏は「当社は先端ロボット工学技術を社会実装していくことを目標として2007年から活動を続けてきた。つい先日の2024年7月20日、当社の『零式人機 ver2.0』をベースに日本信号が開発した『多機能鉄道重機』がJR西日本の沿線での利用が始まったが、先端ロボット工学技術の社会実装と言う観点でこれはエポックメイキングなことだと考えている。今回の成果発表会は、これから爆発的にロボット工学技術の社会実装が始まる潮目に位置しており、参加者の皆さんはその瞬間を目撃している」と強調する。また、河森氏と根津氏が工業デザインを担当する人型ロボットは、社会実装コンセプトとしてのPoC試作機の位置付けとなる。河森機となる「一零式人機 ver.1」は、人間サイズの高所作業機を想定しており、根津機となる「零一式人機 ver.2」は別途開発中の電動シリンダーの採用で大出力が可能になるとする。さらに、一零式人機 ver.1は変形機能、零一式人機 ver.2はサブアームを搭載するなど、今後の開発の方向性を示唆するコメントも出た。

二足歩行に向け3つ目のコア技術を開発

 人機一体が開発するロボットは、人が遠隔操作することを前提にした人型重機の“人機”である。この人機によって「あまねく世界からフィジカルな苦役を無用とする」ことを目標に掲げている。実際に、社会実装を果たした多機能鉄道重機は、高所作業車のブームの先端に搭載した人の上半身を模した人機を地上から遠隔操作することで、高所の重作業を人に替わって行える。金岡氏は「ロボット開発ではAI(人工知能)を用いた自動化の話が出てくるが、現在のAI技術では人が行う作業を全て代替することは難しい。当社は、人の直感的な操作によってこそ人型重機である人機の作業が可能になると考えている。AIはあくまでそのサポートとして利用することになるだろう」(金岡氏)。

人機一体はこれまで、力/トルク制御ベースの柔軟な動作を実現する「プロクシベースト・アドミタンス技術(PABC)」、操作者が操作機を通して作業機を直感的に操れるようにする「力順送型バイラテラル制御(FPBC)」をコア技術としてきた。ただし、これらは下半身のない多機能鉄道重機のベースとなる零式人機 ver2.0の開発に必要とされていたものだ。

金岡氏は「人機の社会実装を拡大していくためには、人機がやれることを増やしていく必要がある。そして、人が直感的に操作する以上、シンプルな人型として二足歩行が可能なことを示す必要がある。移動することだけを目的とするなら歩行にこだわる必要はないが、人型のシンボルとして二足歩行が求められるだろう」と説明する。

 そこで、人機の歩行を実現する3つ目のコア技術として開発を進めているのがハイブリッドオートバランス制御(HABC)だ。現在の二足歩行ロボットの多くは位置制御ベースであり、路面状況など外界の情報の緻密(ちみつ)な計算と、それに基づく事前の歩行計画(軌道計画)が必要になる。しかし、未知の環境下で歩行させようとするとコンピュータに高負荷の演算処理が発生してしまう。

しかし人機では、歩行計画のような上位の制御を人の操作に任せることができるため、バランス維持のような下位の制御をコンピュータが担い、これらを力制御ベースで統合すればよい。人間の操作に頼らずに自律的にバランスを維持するオートバランス制御を力ベースのハイブリッド制御で実現することから、ハイブリッドオートバランス制御と呼んでいる。

 今回披露した零一式カレイド ver.1.1では、ベースとなるカレイドの足部について、3本指を持つ独自構造のものに変更している。この足部周辺の関節を用いるハイブリッドオートバランス制御はアンクルストラテジーとなっているが、さらなる歩行安定性を求める場合には腰部周辺の関節も用いてバランスを取るヒップテクノロジーの導入も検討する方針である。さらに、下位の制御を力制御ベースで統合するというコンセプトに基づき、単脚バランス維持制御の集合として2足歩行よりも脚の数が多い多脚歩行への応用も可能だ。金岡氏は「人とコンピュータという2つのアタマがあるからこそ実現できる」と述べている。