日本企業の製品やサービスが国際規格として承認される「国際標準化」に向けた戦略を政府が進めている。6月に標準化の国際交渉の経験がある人材をまとめたデータベースを開設。来春にも日本企業の標準化への対応を支援する新たな国家戦略を策定する。人工知能(AI)や量子といった成長分野で国際規格を巡る競争が激しさを増しており、日本が主導権を握れるよう後押しする。

統一のルールづくり

標準化とは製品やサービスについて、その形状や大きさ、表示方法などを統一するルールづくりを指す。例えば乾電池の形状やサイズは国際規格になっており、海外でも使える。昭和後期に松下電器産業(現パナソニックホールディングス)が主導した。逆に国際標準化できなければ販売地域が日本に限定され、海外販売では他の規格に合わせなければならない。

国際規格として承認されるには、国際電気標準会議(IEC)や国際標準化機構(ISO)などの国際機関が開く国際会議で認められる必要がある。企業が提出した企画案について、専門家らの議論を経て参加国の投票が行われ、多数を得れば承認される。

国際標準化の成否は国際交渉にノウハウのある人材が左右する。技術的な専門知識や語学、ロビー活動のための人脈など、必要な能力は多岐にわたる。企業が専門人材を育成するのは難しい。

こうした中、政府は5月に有識者らで構成する「国際標準戦略部会」を設置。人材や支援基盤などの課題について議論し、来春にも必要な支援策を盛り込んだ「国家標準戦略」を策定する。

企業とのマッチング

経済産業省は6月、専門知識のある人材のデータベースを作成し、ホームページで公表を始めた。産業技術総合研究所など3団体に所属する国際標準化を経験した150人を掲載し、一般企業や大学に所属する経験者も随時追加する。担当者は「標準化(に精通する)人材は外部から見えづらい。人材を欲する企業とのマッチングを進めたい」と話す。

国が計画を進めるのは、国際競争の激化のためだ。米国は昨年、AIや量子などの先進技術で国際標準化を主導する戦略を発表。中国もすでに国際標準化を通じて自国の技術を海外展開していく政策を推進している。

 

 

ISOで議論を行う作業部会(ワーキンググループ、WG)の議長のポスト数は2013年に7位だった中国が、2022年は第3位まで浮上。日本は5位を維持したままで、中国が存在感を高めている。経産省の担当者は「力を入れていかなければ後れを取る」と危機感をあらわにする。

日本企業、知見生かし規格化

日本企業は「ものづくり」の知見を生かし、さまざまな分野で国際標準化を進めてきた。

スマートフォンで読み込める「QRコード」はデンソーウェーブが開発、2000年に国際規格となった。スイカなど交通系ICカードで使われている近距離無線技術はソニーが開発。04年に国際規格となっている。

産業分野では、制御機器のIDECが工場で使う産業用ロボット向けに安全性の高いスイッチを開発。国際市場をリードしている。作業員が軽くスイッチを押した状態のときに動き、強く握りこんだり手を離したりした時に、緊急事態と判断して停止する。人間の反射を生かした安全設計で、06年に国際規格となった。

積水化学工業は老朽化した下水管の内側に新管を作って補強する工法を開発し、ISO規格を創設。水を流したまま地面を掘り返さずに工事でき、国内外で受注を拡大させている。