俗にいう「スマートマネー」が中国から流出しつつある。かつてないほど多くの中国の富豪が母国を後にしており、今年は1万5200人が他国へ移住すると見られている。

投資移住コンサルのHenley & Partners(ヘンリー・アンド・パートナーズ)は中国の富裕層の投資移住を追跡しており、今年の移住者は前年の1万3800人を1割ほど上回ることが予想されると指摘している。香港を離れると見込まれている500人程度の富裕層を加えると、投資移住の加速はさらに劇的なものになる。

移住者の大半が米国やシンガポールに向かう。移住に伴って持ち出す資産の額を証明する方法はないが、過去の傾向からHenley & Partnersは1人あたり3000万〜10億ドル(約48億〜1610億円)相当と推定している。

予想されるように、移住を決めた人々が語る国外脱出の理由はさまざまだ。だが、大半の人が中国の現在の経済状況が暗に示す不確実性と、そうした不確実性により安定した投資収益が今後見込めないことに言及している。現在も続く不動産危機と不動産をめぐる混乱が不確実性の評価に大きく影響している。特に、不動産価値の下落が世帯の資産を目減りさせ、それにともない中国の経済成長の見通しに疑問を残しているためだ。

また、移住の理由として格付け会社のムーディーズとフィッチによる中国の信用格付け見通しの引き下げに言及する人もいる。引き下げの理由は明言されなかったものの明らかだ。習近平国家主席が過去に民間企業や資産家に対する取り締まりを強化する姿勢を示していたからだ。

シンガポールは長い間、中国の富豪が好む移住先だった。だが最近、同国は中国からの資産の流入に対する監視を強化している。隠すものが何もない人たちでさえ、逃避先のシンガポールで現在暗黙の了解となっている煩わしさやプライバシーの喪失を避けたいと思っているかもしれない。

カナダと米国は、今後も中国人が資産とともに移る人気の行き先だろう。アラブ首長国連邦も好まれている。同国では個人所得税はない。また、贅沢な暮らしや、簡単かつ密やかな投資資金の移動を可能にする、いわゆる「ゴールデンビザ」を提供している。日本も中国に近いこと、魅力的なライフスタイル、そして世界で最も安全な国の1つであることから人気の移住先となっている。

公平を期すために言っておくと、富豪らが流出しているのは中国だけではない。韓国と台湾でも起こっている。韓国と台湾の場合、経済よりも安全保障が大きな懸念事項となっている。韓国にとっては、好戦的な北朝鮮が大きな脅威だ。台湾の富豪らは、中国が軍事力をちらつかせていることから自身や資産、家族を懸念される危険から遠ざけようとしている。特にドナルド・トランプが米大統領の座に返り咲いた場合、米国は台湾を防衛するのかという疑問が間違いなく影を落としている。

中国を注視している人々は、中国の富裕層の移住に関するニュースから2つのメッセージを読み取ることができる。1つは、習近平の経済運営は明らかに否定的にとらえられていること。もう1つは、影響を測る方法はないものの、国内経済を活性化させるための中国政府の取り組みが富豪の資産の流出で一層困難なものになるということだ。